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2018-08-13 (Mon)
今年6月上旬に月井栄三郎さんのご案内のもと、栃木県の農村部の溜池群を訪れ、私とは初対面となるトラフトンボ Epitheca marginata (Selys, 1883) を始め、数種類のトンボを観察することができました。

今回は、その第4報として、トラフトンボ♂と同様に♂が池面上をパトロールするトンボが、他に3種、観察・撮影されましたので、簡単にご紹介します(シリーズ記事一覧はこちら)。

今回の観察地の特徴については、シリーズ初回記事をご参照ください。

目 次
 ◆オオヤマトンボ♂のパトロール飛行
 ◆オオヤマトンボの飛行操縦術
 ◆オオヤマトンボ、♂のセックスアピール
 ◆今回は脇役:ギンヤンマとオオギンヤンマ
 ◆謝辞
 ◆耳より情報!(『トンボ博物学』特価頒布)


オオヤマトンボ♂のパトロール飛行

トラフトンボのパトロール飛行や交尾が見られた池(写真1)の岸沿いを、1頭のオオヤマトンボ Epophthalmia elegans (Brauer, 1865) ♂がパトロール飛行していました(写真2)(観察2日目、‏‎‏‎10時51分)。

トラフトンボなどが見られた溜池 
写真1 オオヤマトンボ♂のパトロール飛行が見られた溜池。初回記事から再掲)(写真はクリックで拡大します) 

オオヤマトンボ♂ 
写真2 オオヤマトンボ Epophthalmia elegans 

このオオヤマトンボ♂も、前々回の記事で取り上げたトラフトンボ♂と同様に、ジュンサイの浮葉がまばらにある岸沿いをパトロールしています。

ただし、このオオヤマトンボ♂は、トラフトンボ♂と比べて、水面上のより高い場所を、より速いスピードでパトロールしていた印象でした。

写真3は‎、写真2と同じ個体(10分前に撮影)をトリミングしたものです。

オオヤマトンボ 
写真3 オオヤマトンボ Epophthalmia elegans ♂ (同一個体)

この♂の飛行中の姿勢をチェックしてみましょう。

腹部は若干下に反り気味ですが、ほぼ真っ直ぐ後ろに伸ばし、脚はすべてきちんと折り畳み、胸部に密着させています。

翅が止まっているかのように写っていますが、これは高速シャッター(ISO=2000、露出時間=1/8000秒)のためです。

前・後翅が前から見て「X」字のように見えていますが、これは、他のトンボ同様、前・後翅の位相をずらせて羽ばたいているからです。

写真3は、水平にほぼ直線的に飛行していることが、頭部から腹先まで水平面に対する左右の傾きがないことから推定できます。


オオヤマトンボの飛行操縦術

一方、同じ個体の別のタイミングでの飛行姿勢を写した写真4a、bでは、翅が水平面に対して明らかに左か右の一方に傾いています。

オオヤマトンボ♂ 
写真4a、b オオヤマトンボ Epophthalmia elegans ♂ (同一個体)

写真4aでは、頭部だけ見ると、進行方向に対して左右の傾きはほとんどありませんが、翅胸部は腹部とともに大きく左に傾いています。

そのため、左右の翅が鉛直方向にではなく、進行方向に向かって左斜め上から右斜め下に打ち振られる態勢になっています。

この翅の振動は必然的にトンボの体を進行方向に向かって左上方向にリフトする力を生じますので、そこから重力を差し引くと、トンボの体を左方向に押しやることになります。

この方向のベクトルをもつ力が働く結果、トンボは左にカーブを描くように、進行方向を変えることになります。

写真4bでは、写真4aとは逆に、翅胸部と腹部は右に傾いています。

ただし、その傾きの角度はずっと小さいことから、写真4aの場合とくらべて(向きは逆ですが)緩やかなカーブを描こうとしているのか、あるいはカーブする直前までの飛行速度が遅かったかの、いずれかでしょう。


オオヤマトンボ、♂のセックスアピール

写真5は、同じ♂個体を斜め後ろから撮ったものです。

オオヤマトンボ♂ 
写真5 オオヤマトンボ Epophthalmia elegans ♂ (同一個体)

この角度から見ると、腹部の第4,5,6節あたりがぐっと窄まり、第7、8、9節が太まるだけでなく、左右に少し拡がり、「男」らしさを演出している印象です。

まちがいなく、♀も交尾をするために池に来ることはあるわけで(もちろん、既交尾のために交尾は避け、産卵のためだけに来る♀も多いですが)、そんな♀は池が見え始めたところから、「♂は飛んでいるかな?」、「どうせ結婚するなら♀を惹きつける外見や飛び方の♂がいいな」と、品定めをしているかもしれません。

少なくとも、そのような注意を払い、意思決定をしていくことは、自分の直接の子孫によい遺伝子を付け加えていくことになり、結果的に孫世代以下の子の数を増やすというかたちで、適応度を高めることにつながるはずです。

そんな♀を狙っての、♂たちのダンディー振り、すなわち、この「決まってる」体形と精悍な飛翔スタイル、があるとみることができるでしょう。

勿論、ヒトと違って、トンボの個体が自分の意思で、体形や飛翔スタイルを変えることはありません。
単に、そのような外形や飛翔スタイルをつくる遺伝子の組み合わせを、両親から受け継いでいるに過ぎません。

私がこのブログでトンボの厚化粧、ドレスアップ、コーディネートなどの擬人化表現をよく用いますが、それはあくまでも擬人化であって、実際はトンボ個体の自由にならない遺伝子(+後天的影響[例:栄養、温度、日長、etc.])が、結果としてそうさせているというのが本当のところです。

つまり、遺伝子レベルの無方向の突然変異や、交配による遺伝子の組み合わせによって、トンボの個体の意志とは無関係のところで、新しい形態や行動上の形質が現れ、それが同種集団の中で有利であれば集団中での頻度が増大していくというプロセスが起きている、というのが非擬人的表現になります。

またまた理屈っぽくなりましたが、オオヤマトンボについては、このくらいにしましょう。


今回は脇役:ギンヤンマとオオギンヤンマ

この池および隣接の池には、パトローラーとして、トラフトンボ、オオヤマトンボの他に、ギンヤンマ Anax parthenope (Selys, 1839) クロスジギンヤンマ Anax nigrofasciatus Oguma, 1915 の姿もありました(写真6)。

クロスジギンヤンマとギンヤンマの♂ 
写真6 ギンヤンマ Anax parthenope とクロスジギンヤンマ Anax nigrofasciatus の♂ 

池のトンボたちの集団を一つの国の民に例えるならば、ギンヤンマは有象無象の民の上に君臨する帝王にふさわしい、勇壮なパトロール飛行を行う種であるということに異論をはさむ人は少ないでしょう。

実際、ヨーロッパには Anax imperator (直訳:皇帝ギンヤンマ)とLeachによって(1815年に)命名されたヤンマがいるくらいですから。

そのような絶対的存在を、同属のクロスジギンヤンマと抱き合わせの1枚の組み写真にした理由は他でもありません。

沖合をしばらく飛んだだけでシャッターチャンスが少ないこともあり、どちらの種もピントが超甘だったからです。

とはいえ、この写真からだけでも、ジュンサイの繁茂する水面上を悠然と飛ぶ様子はイメージできるのではと思います。

ギンヤンマは、観察2日目の午前10時11分に、シリーズ初回記事の観察地点の池(写真1)でトラフトンボ♂のパトロール撮影中に、同じ場所の沖合を飛んでいたものです。

※ギンヤンマを主役とした過去記事はこちら → 「ギンヤンマ♂」、「ギンヤンマの産卵

クロスジギンヤンマ♂は、‎観察初日の午後、トラフトンボの なわばり争いを観察・撮影した直後の1時59分に、その沖合をパトロール飛んでいるところを撮影しました。

クロスジギンヤンマ♂を撮影した池は、写真1の池ではなく、シリーズ第2回記事の写真3の池です。

※クロスジギンヤンマを主役とした過去記事はこちら → 「クロスジギンヤンマ:飛び回る♂を高速シャッターで激写


次回以降の記事でも、この溜池群で見られた他のトンボの種について、引き続きレポートします。


謝 辞
現地をご案内くださった月井栄三郎さんに、心よりの感謝の意を表します。



耳より情報!
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