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2018-09-09 (Sun)
シリーズ記事「日本産ヤンマ科の系統樹」、第4回(最終回)の今回は、第1回の「Bechly (1996/2007) による形態系統解析」、第2回の「von Ellenrieder (2002) による形態系統分析」、第3回の「尾園・川島・二橋(2012)による分子系統樹」に引き続いて、Carle et al. (2015) による分子系統樹からヤンマ科 Aeshnidae の属の部分を抜粋したものを紹介し、相互に比較検討します。

日本産ヤンマ科の全9属23種のリストを、今回記事の末尾にも第1回記事から再掲しておきました。
必要に応じて参照してください。

ヤンマ科のイメージを再確認したい方のために、オオルリボシヤンマの生態写真を当ブログとしては初掲載し(写真4)、サラサヤンマ の生態写真を過去記事から再掲しておきます(写真2)。

オオルリボシヤンマ♀、産卵 
写真4 オオルリボシヤンマ Aeshna crenata ♀(2007年8月30日、北海道東部)(写真はクリックで拡大)

サラサヤンマ♂(3)
写真2 サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri ♂(過去記事より再掲)


 目 次
 ◆はじめに:Carle et al. (2015) による分子系統樹
 ◆Carle et al. (2015) による系統解析の方法
 ◆Carle et al. (2015) の分子系統樹に依拠して作画した日本産ヤンマ科の ◆属の系統樹
 ◆Carle et al. の分子系統樹の、尾園ほかによる分子系統樹、Bechlyおよび von Ellenrieder  による形態系統樹との比較
 ◆以上の比較の要約
 ◆日本のヤンマ科のリスト(初回記事から再掲)
 ◆分子系統解析の5つの手法
 ◆最尤法についての簡単なまとめ
 ◆ベイズ分析についての簡単なまとめ
 ◆分岐分類学の専門用語について(再掲)
 ◆シリーズ記事の後書き
 ◆Refereces (引用文献:ヤンマ科の系統樹関連)
 ◆引用文献(分子系統学一般)
 ◆耳より情報!(『トンボ博物学』特価頒布)


はじめに:Carle et al. (2015) による分子系統樹

Carle et al. (2015) による分子系統解析は、不均翅亜目全体を対象にした大がかりなものですが、今回は私のこのシリーズ記事のテーマであるヤンマ科に的を絞っているため、その解析結果からヤンマ科の部分のみを抜粋して紹介します。

この論文の共著者は、3人ともアメリカのラトガース Rutgers 大学の研究者で、Dr. Frank Carleはトンボの新種記載を多く手がけている、Dr. Karl M Kjer は分子系統解析の論文を多く公表している、Dr. Michael L Mayは生理生態を中心としてトンボ全体に精通している人物です。


Carle et al. (2015) による系統解析の方法

※解析の方法については専門用語が多いので、一般読者の方には飛ばし読みをお薦めします。

※逆に専門分野の方は、隔靴掻痒感を避けるために、原著を直接参照下さい。

Carle et al. (2015) の論文では、系統解析に必要なデータの大部分の配列を著者達自身が決定した上で、GenBank*のデータも取捨選択して援用しています。

(*注:GenBank(ジェンバンク)は、米国生物工学情報センター(NCBI)が運用している、遺伝子塩基配列データの蓄積・公開のためのデータベース。)

系統解析のために選択されたマーカーは、核rRNA(18S、28S)、介在するVal tRNAを加えたミトコンドリアrRNA(12S -16S)、に加えて、ミトコンドリア シトクロム オキシダーゼ サブユニット1および2(COI & COII)、核ヒストン H3および核伸長因子 サブユニット1α(EF-1α)となっています。

系統解析の前に、外群選択、データの取捨選択、分類群の選択と結合、過誤の削除なども行っっています(詳細は原著を参照)。

系統解析そのものは、一般時間反転可能モデル(general time-reversible:略してGTR**)を、その高速な近似法であるCATモデルで代用して尤度を計算するとともに、最良の系統樹を算出するためにRAxML を用いることで行っています(抄訳に際して、田辺[2015]を参照した)。

(**注:GTRは、いくつかある分子系統解析の手法のうちの「最尤法」(さいゆうほう)のもとでの、最近普及している方法の一つ。)

※最尤法についてもう少し知りたい方は、当ブログ記事の末尾の「最尤法についての簡単なまとめ」をご覧ください。

Carle et al.は、これに加えて、「MRBAYES 3.1.1」を用いてのベイズ分析***も行っています。

(***注:ベイズ分析は、いくつかある分子系統解析の手法の中で、最も新しく現れた方法で、さきほどの「最尤法」とともに最近よく用いられている。)

※ベイズ分析についてもう少し知りたい方は、当ブログ記事の末尾の「ベイズ分析についての簡単なまとめ」をご覧ください。


Carle et al. (2015) の分子系統樹に依拠して作画した日本産ヤンマ科の属の系統樹

以上のような、煩雑だがソフィストケートされた方法による分子系統解析の結果、Carle et al. (2015) はトンボ目のうちの不均翅亜目の系統樹を提案しました。

※Carle et al. のこの系統樹は、最尤法に基づいていることから、単に分岐順序だけでなく、分岐から分岐までの枝長や最後の分岐から当該現生種までの枝長(これは分子進化の変化量の大小の相対比較の尺度になる)を含めた提案となっています(参考:図5;シリーズ記事全体の通し番号)。

最尤法のもとでの有根系統樹の形の一例(イメージ) 
図5 最尤法のもとでの有根系統樹の形の一例(イメージ)(生方、作図)

今回の記事では、シリーズ記事の方針に沿って、その分子系統樹(原著のFig. 1B)から分岐の相対順序のみに着目して(つまり枝長の情報は省いて)、日本産のヤンマ科の属に限った系統樹(分岐図)を描きました(図4)(シリーズ記事全体の通し番号)。

 日本産ヤンマ科(広義)の分子系統樹(Carle et al. [2015] に依拠) 
図4 日本産ヤンマ科(広義)の分子系統樹(Carle et al. [2015] に依拠)(図はクリックで拡大します)

図4に見るように、Carle et al. では分析対象としたヤンマ科の属の分岐順(言い換えれば、単系統群間の姉妹群関係)が、すべて描き出されています。

図4での分岐順を見てみましょう。

時代の古い順に、(サラサヤンマ属Sarasaeschnaと近縁な)Oligoaeschna属、(ミルンヤンマ属Planaeschnaと近縁な)コシボソヤンマ属Boyeria、(アオヤンマ属Aeschnophlebiaと近縁な)Brachytron属の順に分岐し、最後にギンヤンマ属Anax+カトリヤンマ属Gynacantha+ルリボシヤンマ属Aeshna+トビイロヤンマ属Anaciaeschnaが一つの単系統群で残るところまでは、読者の皆さんにもデジャヴ(既視感)を与えているのではないでしょうか?

※Bechlyは形態のみで同様の系統樹を提案し(図1)、Carle et al. は分子のみで系統樹を提案していながら(図4)、結果としてよく似た系統樹が得られたことは(細部でいくつかの不一致があるとはいえ)、素晴らしいことではないでしょうか?

※それだけ、20世紀末までに形態にもとづく系統学が成熟に達していたということが言えるでしょうし、誕生して30年そこそこの間に分子系統学が急速に成長し、形態系統学に追いつき、追い越している状況が目の前で起きているとも言えます。


Carle et al. の分子系統樹の、尾園ほかによる分子系統樹、Bechlyおよび von Ellenrieder  による形態系統樹との比較

 この、Carle et al. (2015) による分子系統解析結果から得られた日本産ヤンマ科の分子系統樹(図4)を、 尾園ほか(2012)による分子系統解析結果(図3;前回記事から下に再掲)、von Ellenrieder  (2002) による形態系統分析結果から得られた日本産ヤンマ科の系統樹(図2前々回記事から下に再掲)、そしてBechly (1996/2007) による形態系統解析結果から得られた日本産ヤンマ科の系統樹(図1初回記事から下に再掲)、と比較してみましょう。


ヤンマ科(広義)の分子系統樹:尾園ほか[2012]に依拠 
図3 ヤンマ科(広義)の分子系統樹:尾園ほか(2012)に依拠


日本産ヤンマ科(広義)の系統樹: von Ellenrieder(2002)に依拠 
図2 日本産ヤンマ科(広義)の系統樹(von Ellenrieder [2002]  に依拠)


日本産ヤンマ科(広義)の系統樹:Bechly (1996/2007) に依拠 
図1 日本産ヤンマ科(広義)の系統樹(Bechly [1996/2007] に依拠) 



Carle et al.による日本産ヤンマ科系統樹の、尾園ほか、von Ellenriederおよび Bechly のそれぞれの系統樹との、共通点・相違点は以下の通りです。

・サラサヤンマ属またはそれに近縁なOligoaeschna属(von Ellenriederでは、サラサヤンマ属をLinaeschna属、Gophoaeschna属とともに単系統群にしている)が一番早く分岐するという点は、尾園を含む4組で一致。

・Carle et al.でのこの部分に関わる尤度、事後確率の値を見てみよう。Oligoaeschna属+Gophoaeschna属の系統群を除く全てのヤンマ科の属を一つの大きな単系統群とすることをサポートする尤度は100、事後確率は100である。
※したがって、ヤンマ科の最初のこの分岐は分子系統解析から見ても疑いの余地の(ほとんど)ないものということがわかる。

・Carle et al.では、(サラサヤンマ属と近縁な)Oligoaeschna属の分岐に続いて、コシボソヤンマ属がBrachytron属よりも先に分岐しているが、BechlyではBrachytron属がコシボソヤンマ属よりも先に分岐している(von Ellenriederでは保留)。

・ミルンヤンマ属(Carle et al.では含まれていない)はBechlyと尾園ほかでコシボソヤンマ属と姉妹群とされているが、von Ellenriederではコシボソヤンマ属の次に残りの群と分岐している。
※Carle et al.がミルンヤンマ属を分子系統解析に加えていたら前者と同じ結果になる可能性のほうがやや高いのではないか?

Brachytron属はCarle et al.ではコシボソヤンマ属よりも後で分岐するが、BechlyではBrachytron属(図1では近縁のアオヤンマ属だけ表示)はコシボソヤンマ属よりも先に分岐する。von Ellenriederおよび尾園ほかでは保留。

・Carle et al.でのこの部分に関わる尤度、事後確率の値を見てみよう。ギンヤンマ属(+Oplonaeschna属+Hemianax属)を加えた上記単系統群(カトリヤンマ属+トビイロヤンマ属+ルリボシヤンマ属(+Rhinaeschna属))がBrachytron属(+Epiaeschna属)と姉妹群であるとする(つまりBrachytron属がコシボソヤンマ属よりも後で分岐することを是とする)尤度は70、事後確率は100である。
※すなわち、尤度が行司であるとすれば軍配は、若干かしげられながらも、Brachytron属がコシボソヤンマ属よりも後で分岐するほうに上がる。

・アオヤンマ属(Carle et al.では含まれていない)は、Bechlyでも、von EllenriederでもBrachtron属と姉妹群となっているので(当シリーズ記事の図1図2にはBrachytron属は描き込んでいないが)、Carle et al.が分子系統解析に加えていたら同じ結果になる可能性は低くないのではないか?

・カトリヤンマ属、ルリボシヤンマ属、ギンヤンマ属、トビイロヤンマ属の4属が(ヤブヤンマ属の扱いは別として)最も多くの派生形質を共有する単系統群という点で、尾園ほかを除く3組で一致。尾園ほかは保留している。

・Carle et al.でのこの部分に関わる尤度、事後確率の値を見てみよう。単系統群(カトリヤンマ属+トビイロヤンマ属+ルリボシヤンマ属[+Rhinaeschna属]+とギンヤンマ属[+Oplonaeschna属+Hemianax属]が姉妹群であるとする尤度は100、事後確率は100となっている。
※というわけで、この単系統群が真に単系統であることの説得力を高めている。

・ヤブヤンマ属(Carle et al.では含まれていない)は、von Ellenriederではカトリヤンマ属よりも早くルリボシヤンマ属とギンヤンマ属を含む単系統群から分岐しているが、Bechlyおよび尾園ほかではカトリヤンマ属よりも後で分岐し、ルリボシヤンマ属と姉妹群(Bechly)または側系統(姉妹群ではないが分岐位置が隣接する)を構成する。尾園ほかではヤブヤンマ属の分岐順を保留していて、側系統の可能性を残す。

・(ヤブヤンマ属は別として、)カトリヤンマ属は、Bechlyとvon Ellenriederではルリボシヤンマ属・ギンヤンマ属・トビイロヤンマ属の3属よりも早く分岐しているが、Carle et al.ではギンヤンマ属が分かれた後にカトリヤンマ属がルリボシヤンマ属+トビイロヤンマ属と分岐している。

Carle et al.による、カトリヤンマ属が単系統群(トビイロヤンマ属+ルリボシヤンマ属(+Rhinaeschna))と姉妹群であるとことを裏付ける尤度は67、事後確率は100である。
※この尤度の値は確率3分の2ということを意味しており、ギンヤンマ属が分かれた後にカトリヤンマ属がルリボシヤンマ属+トビイロヤンマ属と分岐という、Carle et al.による、やや意外な系統関係の支持率は若干心許ないように思われる。

・トビイロヤンマ属は、Bechlyとvon Ellenriederでは、ギンヤンマ属と姉妹群を構成しているが、Carle et al.ではルリボシヤンマ属と姉妹群である。尾園ほかではトビイロヤンマ属の分岐順も保留。

・トビイロヤンマ属とルリボシヤンマ属(+Rhinaeschna)が互いに姉妹群であるとする系統樹の尤度は50、ベイズ事後確率は74とかなり低い。
※ということで、トビイロヤンマ属とルリボシヤンマ属がごく近縁であるという点に関するCarle et al.の結果を確実なものと信じ込まないほうがよさそうだ。


以上の比較の要約

サラサヤンマ属(+Oligoaeschna属)がヤンマ科の中で最初に分岐したということは、形態派2組、分子派2組とも支持しています。

Brachytron属(形態上はアオヤンマ属と近縁)とコシボソヤンマ属の分岐の順序がBechlとCarle et al.で逆転していますが、Brachytron属がコシボソヤンマ属よりも後で分岐するというCarle et al.の結果の尤度は70(確率70%)で、若干の不安を残しています。

ヤブヤンマ属、カトリヤンマ属、ルリボシヤンマ属、ギンヤンマ属、トビイロヤンマ属の5属が単系統群という点において、尾園ほかを除く3組で一致しています。
尾園ほかは保留していますが、Carle et al.の結果の尤度は100であり、信頼度は十分なようです。

Bechlyとvon Ellenriederでは、カトリヤンマ属が、ルリボシヤンマ属・ギンヤンマ属・トビイロヤンマ属の3属よりも早く分岐しているのに対し、Carle et al.ではギンヤンマ属がルリボシヤンマ属+トビイロヤンマ属と分岐しています。
Carle et al.の結果の尤度は67と、あまり高くありません。

トビイロヤンマ属はBechlyおよびvon Ellenriederではギンヤンマ属と姉妹群ですが、Carle et al.ではルリボシヤンマと姉妹群となっています(尤度50)。
尾園ほかがこれに関して保留していることは、この尤度からみて妥当のように思われます。

ヤブヤンマ属の分岐位置は、(対象に入れていない)Carle et al.を除く3者で大きく異なっていて、今後の課題であるといえます。



日本のヤンマ科のリスト(初回記事から再掲)

日本には、9属23種のヤンマ科の種が分布しています(下記リスト:尾園ほか[2012]による)。

サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri (Martin, 1909)写真2
オキナワサラサヤンマ Sarasaeschna kunigamiensis (Ishida, 1972)
コシボソヤンマ Boyeria maclachlani (Selys, 1883)
イシガキヤンマ Planaeschna ishigakiana Asahina, 1951
リスヤンマ Planaeschna risi Asahina, 1964
ミルンヤンマ Planaeschna milnei (Selys, 1883)
アオヤンマ Aeschnophlebia longistigma Selys, 1883
ネアカヨシヤンマ Aeschnophlebia anisoptera Selys, 1883
カトリヤンマ Gynacantha japonica Bartenef, 1909
リュウキュウカトリヤンマ Gynacantha ryukyuensis Asahina, 1962
トビイロヤンマ Anaciaeschna jaspidea (Burmeister, 1839)
マルタンヤンマ Anaciaeschna martini (Selys, 1897)
ヤブヤンマ Polycanthagyna melanictera (Selys, 1883)
マダラヤンマ Aeshna mixta Latreille, 1805
オオルリボシヤンマ Aeshna crenata Hagen, 1856写真4
ルリボシヤンマ Aeshna juncea (Linnaeus, 1758)
イイジマルリボシヤンマ Aeshna subarctica Walker, 1908
ヒメギンヤンマ Anax ephippiger (Burmeister, 1839)
アメリカギンヤンマ Anax junius (Drury, 1770)
ギンヤンマ Anax parthenope (Selys, 1839)
クロスジギンヤンマ Anax nigrofasciatus Oguma, 1915
オオギンヤンマ Anax guttatus (Burmeister, 1839)
リュウキュウギンヤンマ Anax panybeus Hagen, 1867



分子系統解析の5つの手法

・村上(2009)は分子系統解析の方法を以下のように整理している。
 距離行列法
  平均距離法(UPGMA)
  近隣結合法
 形質状態法
  最節約法
  最尤法
  ベイズ法(最尤法のうち、事前確率を考慮したもの)



最尤法についての簡単なまとめ

・最尤法(最尤系統樹推定)は、分子進化(塩基配列あるいはアミノ酸配列の置換)の確率モデルのもとで、観察されたデータ値の生じる確率の積(「尤度*」likelihood)を目的関数として,その値を最大化するように未知のパラメーター(樹形と枝長)を推定する方法(参考:三中 2009;田辺 2015)。

(*「尤度」は、あるモデルが正しいと仮定した状況で手元のデータが得られる確率[参考:大島 2016])。

・最尤法では、近隣結合法(neighbor-joining)や段階的配列付加法などで生成した初期系統樹と、それを枝交換によって樹形改変してできる系統樹の尤度を計算し、より尤度の高い系統樹が見つかればそれを初期系統樹としてまた同じことを繰り返す(参考:田辺 2015;大島 2016)。

・RAxMLによるブートストラップ(bootstrap)解析は、樹形の信頼性を検討するために、ブートストラップリサンプリングしたデータを用いて系統樹推定を繰り返すことで、各内分枝の再現率を得るもの(参考:田辺 2015)。

・ブートストラップでは、元のアラインメントからランダムにサイトを元の数だけ選んで1組の擬似データとする。その際、同じサイトを複数回選んでもかまわない。多数の擬似データの組について、系統樹を作成し、初期系統樹ののトポロジーが作成された回数を数え、再現率を得る(参考:田辺 2015;川端猛 2010)。

・最尤法の具体的な作業手順については、下平(2003)が参考になる。



ベイズ分析についての簡単なまとめ

・ベイズ法(Bayesian methods)は、パラメーターの事前確率分布(prior distribution)を仮定し,ベイズの定理のもとで尤度を通してデータの情報を加味した事後確率分布(posterior distribution)を目的関数とするベイズ推定を用いた系統樹の作成法(参考:三中 2009;田辺 2015)。

・ベイズ法の計算アルゴリズムとしてのマルコフ連鎖モンテカルロ法(Markov chain Monte Carlo略してMCMC)により,事後確率分布のかたちをうまく推定することにより,その期待値としてベストの樹形を選び出そうとする(参考:三中 2009;田辺 2015)。

・ベイズ法の詳細については、仲田(2006)が参考になる。 



分岐分類学の専門用語について(再掲)

分岐分類学の専門用語について、梶田(2012)は、最節約法に的を絞って、図を添えて簡潔明瞭に解説しています。



シリーズ記事の後書き

シリーズ記事「日本産ヤンマ科の系統樹」を終えるにあたり、蛇足を付け加えておきます。

シリーズ記事を通して、私は分岐順優先の記述をしてきました。

これは、たとえば人類の進化を語る際に、原始的なものから順にたどっていくと理解しやすいという発想を大切にしたからです。

しかしながら、分岐分類および分子系統解析(距離行列法を除く)のいずれにおいても、解析の手順は「派生形質をもっとも多く共有する分類群同士を互いに姉妹群として枝と枝をくっつける作業を繰りかえしながら、系統を古い時代に遡る方向に進みながら系統樹を組み立てていきます。

そのため、今回の記事では、尤度や事後確率の数値を添えて姉妹群を評価する記述を、その直前の記述(分岐順について述べている)と関連づける際に、読者の皆さんに混乱を与えた可能性があったのではと危惧します。

もし、その部分が何を言いたいのか分かりにくかったという印象をお持ちの方は、この分岐分析、分子系統解析の分岐確定手順や尤度について基本を押さえた上でもう一度私の比較検討の記述を読み返されると少しは理解していただけるかもしれません。

私自身は、大学院では昆虫の行動・生態を研究テーマとしてはいましたが、動物系統分類学講座に所属していましたので、様ざまな動物の比較解剖学の実習を受けたり、Hennig(1966)*の分岐分類学の大著(英語)を輪読したりと、系統分類学の理論と実際に関するトレ―ニングも積みました。

とはいえ、私が小規模な地方国立大学に奉職して以降に興隆した分子系統学については、直接遺伝子の抽出や配列決定などに直接携わった経験はなく、共著論文(Masaki et al. 2016 → こちらの過去記事参照)の作成過程で分子系統解析のデータの解釈の議論に参加したり、大学(大正大学、非常勤)での動物生態学の講義に際して教科書中の分子系統関連の記述を学生に簡単に解説した程度でした。

というわけで、今回のシリーズ記事内での分子系統関連の記述には不正確な点や誤解を与える点が含まれているかもしれません。

今後、気づき次第、訂正しますし、読者の皆さんからのご指摘もお待ちしています。


引用文献(後書き関連)

Willi Hennig (1966) Phylogenetic Systematics. (tr. D. Davis and R. Zangerl), Univ. of Illinois Press, Urbana.

Sinzo Masaki, Masayuki Soma, Hidenori Ubukata, Haruo Katakura, Rie Ichihashi, Zhuqing He, Nobuaki Ichijo, Norio Kobayashi & Makio Takeda (2016) Ground crickets singing in volcanic warm “islets” in snowy winter: Their seasonal life cycles, photoperiodic responses and origin. Entomological Science, 19(4), 416-431.



Refereces (引用文献:ヤンマ科の系統樹関連)

Bechly, G. (1996) Morphologische Untersuchungen am Flügelgeäder der rezenten Libellen und deren Stammgruppenvertreter (Insecta; Pterygota; Odonata) unter besonderer Berücksichtigung der Phylogenetischen Systematik und des Grundplanes der *Odonata. - Petalura, spec. vol. 2: 402 pp, 3 tabls, 111 figs (revised edition with 60 pages English appendix on the phylogenetic system of odonates). (Bechly 2007から間接引用)

Bechly, G. (2007) Phylogenetic Systematics of Euanisoptera / Aeshnoptera.

Carle, F. L. , K. M. Kjer & M. May. (2015) A molecular phylogeny and classification of
Anisoptera (Odonata). Arthropod Systematics & Phylogeny. 73(2): 281-301.
2018.8.25.アクセス

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。

von Ellenrieder, N.(2002) A phylogenetic analysis of the extant Aeshnidae(Odonata: Anisoptera). Systematic Entomology (2002) 27, 437-467.
2018.8.25.アクセス



引用文献(分子系統学一般)

梶田 忠 (2012) 「授業/H24/進化生物学I/系統樹に関する基本用語」。

川端 猛 (2010) 「分子系統学基礎」。平成22年度・近畿大学・農学部・生命情報学(講義資料)


三中信宏  (2009) 「分子系統学:最近の進歩と今後の展望」。 植物防疫,63(3): 192-196.

村上勝彦 (2009) 「分子系統解析」。バイオインフォマティクスの基礎:分子生物学データベース(講義資料)

仲田崇志 (2006) 「Bayes 法(ベイズ法)の原理」。


大島研郎 (2016) 「生物配列解析基礎 」。分子系統学の基礎 (講義資料)。

下平英寿 (2003) 「系統樹の推定」。バイオインフォマティクス(分子系統樹の推定)の体験的入門5.

田辺晶史 (2015) 「分子系統学演習 データセットの作成から仮説検定まで」。



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