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2018-09-02 (Sun)
シリーズ記事「日本産ヤンマ科の系統樹」、第3回の今回は、第1回の「Bechly (1996/2007) による形態系統解析」、第2回の「von Ellenrieder (2002) による形態系統分析」に引き続いて、尾園・川島・二橋(2012による日本産トンボ目の分子系統樹からヤンマ科の属の部分を抜粋したものを紹介します。

日本産ヤンマ科の全9属23種のリストを、今回記事の末尾にも前々回記事から再掲しておきました。
必要に応じて参照してください。

ヤンマ科のイメージを再確認したい方のために、サラサヤンマ クロスジギンヤンマの生態写真を過去記事その1および過去記事その2から再掲しておきます(写真2、3)。

サラサヤンマ♂(3)
写真2 サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri ♂(過去記事より再掲)(写真はクリックで拡大)

クロスジギンヤンマ♂(1)
写真3 クロスジギンヤンマ Anax nigrofasciatus Oguma ♂過去記事より再掲)


 目 次
 ◆はじめに:尾園ほか(2012)に掲載された日本産トンボ目の分子系統樹
 ◆尾園ほか(2012)による系統解析の方法
 ◆分子系統解析につての専門家による解説の紹介
 ◆分岐分類学の専門用語について
 ◆尾園ほか(2012) の分子系統樹から抜粋した日本産ヤンマ科の属の系統樹
 ◆尾園ほか(2012) による日本産ヤンマ科分子系統樹の、Bechly (1996/2007)、および von Ellenrieder  (2002) による形態系統樹との比較
 ◆日本のヤンマ科のリスト(前々回記事から再掲)
 ◆Refereces (引用文献)


はじめに:尾園ほか2012に掲載された日本産トンボ目の分子系統樹

尾園ほか(2012) による『日本のトンボ』は、ハンディ―な本であるにもかかわらず、日本産のすべてのトンボの成虫・幼虫の生体の原色写真、成虫の形態のうち同定の鍵となる部位の線画と説明文が生態や分布の情報とともに掲載され、トンボ研究者・観察者が種の同定をする際にたいへん重宝している本です(最新のものは改訂第三版)。

この本の表紙見返しには、日本産トンボ目の全203種の分子系統樹が掲げられています(これは、それまでの日本産のトンボ図鑑類にはなかったことです)。


尾園ほか2012による系統解析の方法

尾園ほか(2012)での分子系統解析は、この本の共著者である二橋亮博士が主に担当していて、同書の解説文「トンボの分類」の「トンボのDNA解析」の項に、その方法の概要が紹介されています(以下に抜粋)。

・「国内のトンボ全種について、核DNA(ITS1領域とITS2領域)とミトコンドリアDNA(16SrRNA領域とCOI領域)の情報が公開されている。」
・これらのDNAの「塩基配列の違いを指標に、異なるグループ間の系統関係を類推する方法から203種の系統関係(進化した道筋)を示す。」


分子系統解析についての専門家による解説の紹介

すぐ上の文章に、DNAの配列データから「異なるグループ間の系統関係を類推する方法」とありますが、どのような方法か一般の方には馴染みがないと思いますので、日本における生物系統学の理論的リーダーの1人である三中信宏博士による解説を紹介しておきます。

三中 信宏 (2009) :分子系統学:最近の進歩と今後の展望. 植物防疫,63(3): 192-196.


分岐分類学の専門用語について

今回のシリーズ記事では、以下のような分岐分類学の専門用語を頻繁に使用していて、解りにくい方も多いと思います。

系統樹/分類群/トポロジー/単系統群/姉妹群/側系統群/外群/形質/共有派生形質/最節約法/ホモプラシー

これらについて、図を添えて簡潔明瞭に解説しているウェブサイトがありますので、必要な方は参照ください。

以上2本の解説内容が難しすぎると感じられた場合は、「分子系統」「方法」でネット検索されるとよいでしょう。


尾園ほか(2012) の分子系統樹から抜粋した日本産ヤンマ科の属の系統樹

尾園ほか(2012)の表紙見返しに掲載された日本産トンボ目の分子系統樹から、ヤンマ科の属を抜粋して作図したものが、図3です(前々回記事前回記事からの通し番号)。

ヤンマ科(広義)の分子系統樹:尾園ほか[2012]に依拠 
図3 ヤンマ科(広義)の分子系統樹:尾園ほか(2012)に依拠(図はクリックで拡大)


尾園ほか(2012)による日本産ヤンマ科分子系統樹の、Bechly (1996/2007) および von Ellenrieder  (2002) による形態系統樹との比較

 この、尾園ほか(2012)による分子系統解析結果から得られた日本産ヤンマ科の分子系統樹(図3)を、Bechly (1996/2007) による形態系統解析結果から得られた日本産ヤンマ科の系統樹(図1前々回記事から下に再掲)、およびvon Ellenrieder  (2002) による形態系統分析結果から得られた日本産ヤンマ科の系統樹(図2前回記事から下に再掲)と比較してみましょう。

日本産ヤンマ科(広義)の系統樹:Bechly (1996/2007) に依拠 
図1 日本産ヤンマ科(広義)の系統樹(Bechly [1996/2007] に依拠) (図はクリックで拡大します)

日本産ヤンマ科(広義)の系統樹: von Ellenrieder(2002)に依拠 
図2 日本産ヤンマ科(広義)の系統樹(von Ellenrieder [2002]  に依拠)

尾園ほか(2012)による日本産ヤンマ系統樹の、Bechly (1996/2007)および von Ellenrieder(2002)のそれぞれの系統樹との共通点・相違点は以下の通りです。

・サラサヤンマ属 Sarasaeschna(またはそれに近縁な Oligoaeschna属)が一番早く分岐する点は3組の業績で一致。

・コシボソヤンマ属 Boyeria とミルンヤンマ属 Planaeschna が姉妹群であるという点で Bechly と一致。

・ヤブヤンマ属 Polycanthagynaが、カトリヤンマ属 Gynacantha と分岐した後で、ルリボシヤンマ属 Aeshna(あるいはルリボシヤンマ属を含む単系統群)と分岐している、という点において Bechlyと一致。

・Bechly、von Ellenriederのいずれも、トビイロヤンマ属 Anaciaeschna とギンヤンマ属 Anax を姉妹群としているが、尾園ほか では関連づけられていない。

・アオヤンマ属 Aeschnophlebia は、 von Ellenrieder 同様に、日本産の他の属と姉妹群にされていない。

以上をまとめると、尾園ほか(2012)では、サラサヤンマ属を除いては、ヤンマ科内での大多数の属の分岐順序が保留されています。

ただし、コシボソヤンマ属とミルンヤンマ属を、そしてヤブヤンマ属とルリボシヤンマ属を、それぞれ姉妹群としています。

とくに、ヤブヤンマ属とルリボシヤンマ属の姉妹群はユニークで、注目されます。

前回記事末尾に宿題としておいた、「ヤブヤンマ属がカトリヤンマ属よりも早く(古い時期に)分岐しているという、von Ellenrieder が導いた結果(Bechlyの結果とは逆)」への支持・不支持という点からいえば、今回の尾園ほか の結果におけるヤブヤンマ属の分岐位置は Bechly の結果とより近い、という結果となりました。

次回の第4回記事では、ヤンマ科についての Carle et al. (2015) によるもう一つの分子系統解析の結果を紹介し、それ以前の3回の記事で紹介した系統樹との比較を行います。
お楽しみに。


日本のヤンマ科のリスト(前々回記事から再掲)

日本には、9属23種のヤンマ科の種が分布しています(下記リスト:尾園ほか[2012]による)。

サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri (Martin, 1909)写真2
オキナワサラサヤンマ Sarasaeschna kunigamiensis (Ishida, 1972)
コシボソヤンマ Boyeria maclachlani (Selys, 1883)
イシガキヤンマ Planaeschna ishigakiana Asahina, 1951
リスヤンマ Planaeschna risi Asahina, 1964
ミルンヤンマ Planaeschna milnei (Selys, 1883)
アオヤンマ Aeschnophlebia longistigma Selys, 1883
ネアカヨシヤンマ Aeschnophlebia anisoptera Selys, 1883
カトリヤンマ Gynacantha japonica Bartenef, 1909
リュウキュウカトリヤンマ Gynacantha ryukyuensis Asahina, 1962
トビイロヤンマ Anaciaeschna jaspidea (Burmeister, 1839)
マルタンヤンマ Anaciaeschna martini (Selys, 1897)
ヤブヤンマ Polycanthagyna melanictera (Selys, 1883)
マダラヤンマ Aeshna mixta Latreille, 1805
オオルリボシヤンマ Aeshna crenata Hagen, 1856
ルリボシヤンマ Aeshna juncea (Linnaeus, 1758)
イイジマルリボシヤンマ Aeshna subarctica Walker, 1908
ヒメギンヤンマ Anax ephippiger (Burmeister, 1839)
アメリカギンヤンマ Anax junius (Drury, 1770)
ギンヤンマ Anax parthenope (Selys, 1839)
クロスジギンヤンマ Anax nigrofasciatus Oguma, 1915写真3
オオギンヤンマ Anax guttatus (Burmeister, 1839)
リュウキュウギンヤンマ Anax panybeus Hagen, 1867


Refereces (引用文献):

Bechly, G. (1996) Morphologische Untersuchungen am Flügelgeäder der rezenten Libellen und deren Stammgruppenvertreter (Insecta; Pterygota; Odonata) unter besonderer Berücksichtigung der Phylogenetischen Systematik und des Grundplanes der *Odonata. - Petalura, spec. vol. 2: 402 pp, 3 tabls, 111 figs (revised edition with 60 pages English appendix on the phylogenetic system of odonates). (Bechly 2007から間接引用)

Bechly, G. (2007) Phylogenetic Systematics of Euanisoptera / Aeshnoptera.

Carle, F. L. , K. M. Kjer & M. May. (2015) A molecular phylogeny and classification of
Anisoptera (Odonata). Arthropod Systematics & Phylogeny. 73(2): 281-301.

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。

von Ellenrieder, N.(2002) A phylogenetic analysis of the extant Aeshnidae(Odonata: Anisoptera). Systematic Entomology (2002) 27, 437-467.


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