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2018-09-11 (Tue)
シリーズ記事「日本産ヤンマ科の系統樹」は、前回の第4回で終了の予定でしたが、結局4通りの系統樹を並列してコメントしただけに終わっていて、今一つ生産性が筆者自身にも感じられませんでした。

そこで、今回はこれまで(下記のように)4回にわたって紹介してきた、分岐順の微妙に異なる4つの系統樹から、なるべく矛盾のないようにしながら、1つの折衷案としての系統樹を作成してみます。


ヤンマ科のイメージを再確認したい方のために、カトリヤンマ♀の生態写真を当ブログとしては初掲載しておきます(写真5)。

カトリヤンマ♀ 
写真5 カトリヤンマ Gynacantha japonica ♀(2015年8月22日、埼玉県)(写真はクリックで拡大)



 目 次
 ◆Bechly、von Ellenrieder、尾園ほか およびCarle et al.による系統樹を折衷した系統樹の提案
 ◆今回の折衷案作成の基準
 ◆今回の折衷案作成に際しての具体的な判断内容
 ◆おわりに
 ◆参考にした系統樹(シリーズ記事1~4から再掲)
 ◆日本のヤンマ科のリスト(初回記事から再掲)
 ◆Refereces (引用文献:ヤンマ科の系統樹関連)(前回記事より再掲)
 ◆最尤法についての簡単なまとめ(前回記事より再掲)
 ◆引用文献(分子系統学、とくに最尤法関連)(前回記事より再掲)
 ◆耳より情報!(『トンボ博物学』特価頒布)



Bechlyvon Ellenrieder、尾園ほか およびCarle et al.による系統樹を折衷した系統樹の提案
 
前回記事までに紹介した、Bechly (1996/2007) 、von Ellenrieder  (2002) のそれぞれに基づく形態系統樹2点、および尾園ほか(2012)、Carle et al. (2015) のそれぞれに基づく分子系統樹2点の、計4点の日本産ヤンマ科系統樹(記事後半の「参考にした系統樹」に再掲)を参考に、筆者が新しく描いた日本産ヤンマ科 AESHNIDAE (広義)の系統樹を図6に掲げます。

日本産ヤンマ科の系統樹(4論文からの折衷案) 
図6 日本産ヤンマ科の系統樹(紹介済みの4論文のデータを元にした折衷案)(図はクリックで拡大します) 


今回の折衷案作成の基準

この、折衷案ともいえる系統樹は、より時代的に新しい、そして系統解析のアルゴリズムもソフィストケートされた、分子系統解析の結果に重きを置いて、筆者の判断も加味しながら描いたものです。

「コシボソヤンマ属+ミルンヤンマ属」、「ヤブヤンマ属+ルリボシヤンマ属」、サラサヤンマ属以外の各属の分岐順序は、尾園ほか の系統樹では保留されていましたが、Carle et al.の系統樹では憶することなく分岐の連続として提案されています。

Carle et al.のこの分岐順の提案のうち、尤度*の高いもの(尤度≧70)を筆者も採用し、その一方で尤度がそれに満たないものについては分岐順を保留し、(究極の2分岐ではなく)4分岐のかたちを残しました。

尾園ほか では(分岐順の一部保留のため)6分岐がありましたので、今回の折衷案では分岐2つ分踏み込んだことになります。

(*尤度については、今回記事末尾の「最尤法についての簡単なまとめ」で簡単な説明をしています。)


今回の折衷案作成に際しての具体的な判断内容

以下の判断内容の羅列は、これまでの記事での記述スタイルとは逆に、分岐関係(姉妹群の認定)が相対的に新しい順に、言い換えれば系統樹の枝先から大枝の方向に向かって順に、記述します(以下、「である体」で記述)。

・ヤブヤンマ属 Polycanthagyna とルリボシヤンマ属 Aeshna を姉妹群とすることに関して、尾園ほか を支持。(Carle et al.はヤブヤンマ属を対象としていない。)

・トビイロヤンマ属 Anaciaeschna とルリボシヤンマ属の姉妹群(Carle et al.:尤度50、ベイズ事後確率74)は解消(保留)。

・カトリヤンマ属 Gynacantha と「トビイロヤンマ属+ルリボシヤンマ属」の姉妹群(Carle et al.:尤度67、事後確率100)は解消(保留)。

・「ギンヤンマ属+カトリヤンマ属+トビイロヤンマ属+ルリボシヤンマ属 Anax (+ヤブヤンマ属)」を単系統群とすること(Carle et al.:尤度100、ベイズ事後確率100; von Ellenrieder)を支持。

・「ギンヤンマ属+カトリヤンマ属+トビイロヤンマ属+ルリボシヤンマ属(+ヤブヤンマ属)」の単系統群と Brachytron属を姉妹群とすること(Carle et al.:尤度70、ベイズ事後確率100)を支持。

・アオヤンマ属 Aeschnophlebia については、Carle et al.はを対象としていないが、Bechly および von Ellenriederはアオヤンマ属を Brachytron属と近縁なものと扱ったので、今回この判断を採用。(Bechly は両属を[広義のヤンマ科を狭義のヤンマ科おおびいくつかの科に細分したものの一つである]BRACHYTRONIDAE科を共に構成するとし、von Ellenrieder も両属を同一単系統群に所属させている。)

・コシボソヤンマ属 Boyeriaが「ギンヤンマ属+カトリヤンマ属+トビイロヤンマ属+ルリボシヤンマ属(+ヤブヤンマ属)+Brachytron属」を姉妹群とすること(Carle et al.:尤度100、ベイズ事後確率100)を支持。

・ミルンヤンマ属 Planaeschna をコシボソヤンマ属との姉妹群とする尾園ほか を支持。Bechlyもミルンヤンマ属をコシボソヤンマ属と同一単系統群(TELEPHLEBIIDAE科[広義のヤンマ科を細分した科の一つ]所属[ただし互いに別亜科])に所属させている。(Carle et al.はミルンヤンマ属は対象としていない。)

・サラサヤンマ属 Sarasaeschna の分岐は尾園ほか および、von Ellenrieder(サラサヤンマ属とOligoaeschna属をGOMPHAESCHNINI族(「族」は、亜科の下の分類階級)に所属させている)を支持。Bechly およびCarle et al.はサラサヤンマ属は対象としていないが、Oligoaeschna属を含む単系統群を広義のヤンマ科の中で最初に分岐させている。

以上です。

重箱の隅をつつくような説明でしたが、飲み込めましたら、その理解を念頭にもう一度、今回提案した折衷案の系統樹をご覧になってください。


おわりに

今回の5回にわたるシリーズ記事で、筆者は自分自身で形態の比較観察も、分子の配列データやアラインメントを眺めることもせずに、他の研究者が苦労して組み立てた系統樹のヤンマ科の部分について、それぞれの特徴を紹介し、最後には、それぞれの良いところをつまみ食いするかたちで、日本産のヤンマ科の折衷的な系統樹を提案しました。

おそらく、数年以内に、分子系統解析を実際に行っている研究者が、最新の各種DNAの塩基配列データをもとに、適切な分子系統解析ソフトによる解析をかけて、オリジナルな系統樹を公表するものと思われます。

それを受けて、分子系統学については門外漢である私が、身の程を顧みることなく作成した、今回の系統樹の樹形(トポロジー)を自己採点できる機会を楽しみにしています。

次回記事からは、通常の野外でのトンボ観察・撮影に基づく内容に戻りますが、ヤンマ科の種がクローズアップされ過ぎないように気を付けたいと思います(笑)。



参考にした系統樹(シリーズ記事1~4から再掲)

 日本産ヤンマ科(広義)の分子系統樹(Carle et al. [2015] に依拠) 
図4 日本産ヤンマ科(広義)の分子系統樹(Carle et al. [2015] に依拠)(再掲)

ヤンマ科(広義)の分子系統樹:尾園ほか[2012]に依拠 
図3 ヤンマ科(広義)の分子系統樹:尾園ほか(2012)に依拠(再掲)


日本産ヤンマ科(広義)の系統樹: von Ellenrieder(2002)に依拠 
図2 日本産ヤンマ科(広義)の系統樹(von Ellenrieder [2002]  に依拠)(再掲)


日本産ヤンマ科(広義)の系統樹:Bechly (1996/2007) に依拠 
図1 日本産ヤンマ科(広義)の系統樹(Bechly [1996/2007] に依拠)(再掲) 



日本のヤンマ科のリスト(初回記事から再掲)

日本には、9属23種のヤンマ科の種が分布しています(下記リスト:尾園ほか[2012]による)。

サラサヤンマ Sarasaeschna pryeri (Martin, 1909)
オキナワサラサヤンマ Sarasaeschna kunigamiensis (Ishida, 1972)
コシボソヤンマ Boyeria maclachlani (Selys, 1883)
イシガキヤンマ Planaeschna ishigakiana Asahina, 1951
リスヤンマ Planaeschna risi Asahina, 1964
ミルンヤンマ Planaeschna milnei (Selys, 1883)
アオヤンマ Aeschnophlebia longistigma Selys, 1883
ネアカヨシヤンマ Aeschnophlebia anisoptera Selys, 1883
カトリヤンマ Gynacantha japonica Bartenef, 1909(写真5)
リュウキュウカトリヤンマ Gynacantha ryukyuensis Asahina, 1962
トビイロヤンマ Anaciaeschna jaspidea (Burmeister, 1839)
マルタンヤンマ Anaciaeschna martini (Selys, 1897)
ヤブヤンマ Polycanthagyna melanictera (Selys, 1883)
マダラヤンマ Aeshna mixta Latreille, 1805
オオルリボシヤンマ Aeshna crenata Hagen, 1856
ルリボシヤンマ Aeshna juncea (Linnaeus, 1758)
イイジマルリボシヤンマ Aeshna subarctica Walker, 1908
ヒメギンヤンマ Anax ephippiger (Burmeister, 1839)
アメリカギンヤンマ Anax junius (Drury, 1770)
ギンヤンマ Anax parthenope (Selys, 1839)
クロスジギンヤンマ Anax nigrofasciatus Oguma, 1915
オオギンヤンマ Anax guttatus (Burmeister, 1839)
リュウキュウギンヤンマ Anax panybeus Hagen, 1867



Refereces (引用文献:ヤンマ科の系統樹関連)前回記事より再掲)

Bechly, G. (1996) Morphologische Untersuchungen am Flügelgeäder der rezenten Libellen und deren Stammgruppenvertreter (Insecta; Pterygota; Odonata) unter besonderer Berücksichtigung der Phylogenetischen Systematik und des Grundplanes der *Odonata. - Petalura, spec. vol. 2: 402 pp, 3 tabls, 111 figs (revised edition with 60 pages English appendix on the phylogenetic system of odonates). (Bechly 2007から間接引用)

Bechly, G. (2007) Phylogenetic Systematics of Euanisoptera / Aeshnoptera.

Carle, F. L. , K. M. Kjer & M. May. (2015) A molecular phylogeny and classification of
Anisoptera (Odonata). Arthropod Systematics & Phylogeny. 73(2): 281-301.
2018.8.25.アクセス

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』 文一総合出版。

von Ellenrieder, N.(2002) A phylogenetic analysis of the extant Aeshnidae(Odonata: Anisoptera). Systematic Entomology (2002) 27, 437-467.
2018.8.25.アクセス



最尤法についての簡単なまとめ前回記事より再掲)

・最尤法(最尤系統樹推定)は、分子進化(塩基配列あるいはアミノ酸配列の置換)の確率モデルのもとで、観察されたデータ値の生じる確率の積(「尤度*」likelihood)を目的関数として,その値を最大化するように未知のパラメーター(樹形と枝長)を推定する方法(参考:三中 2009;田辺 2015)。

(*「尤度」は、あるモデルが正しいと仮定した状況で手元のデータが得られる確率[参考:大島 2016])。

・最尤法では、近隣結合法(neighbor-joining)や段階的配列付加法などで生成した初期系統樹と、それを枝交換によって樹形改変してできる系統樹の尤度を計算し、より尤度の高い系統樹が見つかればそれを初期系統樹としてまた同じことを繰り返す(参考:田辺 2015;大島 2016)。

・RAxMLによるブートストラップ(bootstrap)解析は、樹形の信頼性を検討するために、ブートストラップリサンプリングしたデータを用いて系統樹推定を繰り返すことで、各内分枝の再現率を得るもの(参考:田辺 2015)。

・ブートストラップでは、元のアラインメントからランダムにサイトを元の数だけ選んで1組の擬似データとする。その際、同じサイトを複数回選んでもかまわない。多数の擬似データの組について、系統樹を作成し、初期系統樹ののトポロジーが作成された回数を数え、再現率を得る(参考:田辺 2015;川端猛 2010)。

・最尤法の具体的な作業手順については、下平(2003)が参考になる。



引用文献(分子系統学、とくに最尤法関連)前回記事より再掲)

川端 猛 (2010) 「分子系統学基礎」。平成22年度・近畿大学・農学部・生命情報学(講義資料)

三中信宏  (2009) 「分子系統学:最近の進歩と今後の展望」。 植物防疫,63(3): 192-196.

大島研郎 (2016) 「生物配列解析基礎 」。分子系統学の基礎 (講義資料)。

下平英寿 (2003) 「系統樹の推定」。バイオインフォマティクス(分子系統樹の推定)の体験的入門5.

田辺晶史 (2015) 「分子系統学演習 データセットの作成から仮説検定まで」。



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