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2014-10-28 (Tue)
エゾイトトンボたちの婚活会場は、沼の岸辺の抽水植物が水面から顔を出しているところです。

今日は、いい天気。
朝日で体が温まったイトトンボたちは、いそいそと会場へ向かいます。
水辺につきました。
そこには、柔らかそうな赤い絨毯。
「気持ちよさそうな絨毯。少し休んでみようか。」

エゾイトトンボ:モウセンゴケに捕えられる
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「しまった!」
「足が絨毯から離れないぞ。」
「羽根もくっついてしまった!」
「もう駄目だ。」

可愛そうに!
モウセンゴケの粘液に捕えられてしまったのです。
まだ若いトンボたちなのに気の毒ですね。
3匹の♂が同じ株のモウセンゴケの餌食となっています*。

トンボの天敵は、第一に鳥、第二に大型のトンボ、第三にクモといったところでしょう(参考:トンボ博物学)。
鳥や大型のトンボは動き回りますから、イトトンボにとっても注意のしようがあります。
ヒトが車にひかれないように注意するのと同じですね。

ですが、まったく動かない「食虫植物」は昆虫にとって危険な落とし穴。

トンボの世界に親からの生活の知恵の伝授や学校がもしあったら、
「赤い毛のはえた緑の絨毯には気をつけなさい」
と教えてくれたでしょう。

しかし、トンボは生まれたときから、親も兄弟も知らずに、一人(1匹)で生きてきました。
「あの赤い絨毯はあぶないぞ」と仲間同士で教え合う手段もありません。

頼りになるのは、遺伝子に刻み込まれた先人(先虫?)の智慧だけです。

もし、モウセンゴケがどこにでもあり、モウセンゴケがエゾイトトンボにとって主要な死亡要因であり続けたならば、水辺にある赤い毛が密生したウチワ状のものに対して忌避行動を起こさせる遺伝子が集団の中に運よく突然変異で生じた場合、その遺伝子を持つ個体の比率は急速に増大していったでしょう。

しかし、実際にエゾイトトンボの生息地で大量のエゾイトトンボがモウセンゴケにとらえられているケースは知られていません。
集団の中の数パーセントにも満たない個体が運悪くモウセンゴケで命を落とす程度の淘汰圧**では、忌避行動を進化させるのに十分でなかったものと思われます。

モウセンゴケが多く生育する高層湿原に専ら生息するカオジロトンボやカラカネイトトンボなどでは、もしかするとモウセンゴケを忌避する行動が見られるかもしれません。
尾瀬ケ原や北海道の湿原の木道でトンボを観察する機会がありましたら、このことを思い出して観察してみてください。

★視点を転じて、モウセンゴケ側から見てみましょう。

高層湿原は外部からの栄養供給の少ない立地に成立するため、窒素、リン、カリウムなどの栄養塩類の欠乏状態にあります。
そんな中で芽生え、葉を広げ、花を咲かせ、実をつける上で、葉にとまった虫たちを毛の先の粘液で捕え、更には消化して吸収してそれを栄養にしてしまうモウセンゴケは、湿原生態系にとっても貴重な存在です。
花に蜜を求めて集まり、受粉を助けてくれる虫たちが粘着トラップにかからないよう、花の茎はスーッと上に伸びています。
花粉媒介者たちは、もしかすると赤い毛の絨毯には気をつけよ、という指令が遺伝子から受け取っているのかもしれません。

注:
*この写真は7年前の7月上旬に北海道東部の沼の、浮島のように浮いた岸辺で撮影しました。

**淘汰圧(選択圧)とは、ある形質を持った個体が環境によって消し去られる(あるいは選び、残される)強さのことです。トゲの硬いウニとトゲの柔らかいウニがあったとしたら、ウニの殻を割って食べる魚や海獣の捕食の淘汰圧が強く働くでしょう。


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