FC2ブログ
10≪ 2018/11 ≫12
123456789101112131415161718192021222324252627282930
2018-10-26 (Fri)
四国遠征*の2日目は、地元の昆虫研究家、飯田貢さんらのご案内のもと、1日目とは方面の異なる地域の4カ所を順に訪れ、南国のトンボ、ベニトンボを含む多様な虫達との出会いを経験することができました。

(* この四国でのトンボ探訪記は、シリーズ物として、これまでに14編の記事にしています[記事一覧はこちら])。

第15報の今回は、この日3番目の訪問地である、低山地の溜池(写真2)で観察した昆虫類のうち、ベニトンボ Trithemis aurora (Burmeister, 1839) の成虫(写真1)について取り上げます。

ベニトンボ♂ 
写真1 ベニトンボ Trithemis aurora  (写真はクリックで拡大します)

目 次:
 ◆ベニトンボと私
 ◆第三の訪問地:低山地の溜池
 ◆草むらのベニトンボ♀
 ◆ベニトンボ未成熟♂
 ◆ベニトンボ成熟♂
 ◆水辺でナワバリ占有するベニトンボ♂
 ◆なわばり防衛戦略について
 ◆次回以降記事予告
 ◆謝辞
 ◆引用文献


ベニトンボと私

ベニトンボは、日本では鹿児島県に局地的に生息していただけでしたが、1980年代以降、台湾方面から分布域の北上が目立ち(杉村ほか1999、尾園ほか2012)、現在では九州・四国の南半分を覆うまでに拡がっています(尾園ほか2012)。

私がベニトンボと初めて対面したのは、2010年5月に沖縄県下で短期間のトンボ・トリップを行った際のことです。

北国(北海道東部)のトンボたちの色彩に馴染んでいた私の眼には、その鮮やかな紅色は、南国的な背景の中で、強烈な印象を与えるものでした。

その時に撮影した1頭の♂の写真はお気に入りで、私のブログやSNSでロゴ代わりの役目を務め続けて、もう4年になります(ご覧のブログの左上隅の写真、そしてこちらこちらこちらを参照)。


第三の訪問地:低山地の溜池

写真2が、ベニトンボとの再会の場となった、この日3番目の訪問地、低山地の溜池です。

ベニトンボが生息する溜池 
写真2 ベニトンボが生息する低山地の溜池

私たちは、11時11分にこの溜池に到着しました。

思っていたよりも広い溜池で、広葉樹主体の森林に囲まれ、静かなたたずまいをしていました。

溜池の堤体の土手(写真2、左下)には、雑草が生い茂っていて、小さな虫が飛び回っていました。


草むらのベニトンボ♀

その草々の間に、小さなトンボの姿もありました(写真3)。(時刻:11:14:44)

ベニトンボ♀ 
写真3 ベニトンボ Trithemis aurora 

一見、アカネ属のようにも見えますが、翅胸前面の黄色と黒のハッキリした模様、そして翅胸側面の独特な形をした黒斑は、アカネ属には見られないものです。

ベニトンボの♀に違いありません(尾部上付属器が単純で短いことから、♀と判別可能)。

「ベニトンボの♀がいますね。」と、私がつぶやくと、

「こっちにも♀、いますよ~。」

「♂、いたよ~。」

と、賢悟さんや山本さんからも、呼び声が。

※ 帰宅後の図鑑照合により、ベニトンボ♀であることを再確認しています。

4分後には、同じ草むらの中に、ベニトンボ♀の別個体を見付け、撮影しました(写真4)。

ベニトンボ♀ 
写真4 ベニトンボ Trithemis aurora ♀ (別個体)

翅脈もしっかり黒化し、体を水平近くに保って、シャキっととまっています。

腹部もスマートなことから、尾部付属器をよく確認しないと♂と間違えかねないスタイルです。


ベニトンボ未成熟♂

この後、草にとまるベニトンボの成熟♂たちがすぐに見つかり(写真1;  11:22:36)、様ざまな角度から撮影しましたが、その後で撮影したベニトンボの未成熟♂の写真を先に掲げることにします(写真5、6;11:32:14)。

ベニトンボ♂未熟 
写真5 ベニトンボ Trithemis aurora 未成熟♂

写真5の♂個体を、色彩が一見よく似た、写真4の♀と比べてみます。
・翅胸部と腹部の長さの比は、♂のほうが大きい(つまり腹部がより細がない)。
・腹部(とくに第4~8節)の黒斑は♂で目立たない。
・翅脈は♀では基部付近を除いて黒いが、♂では後縁と前縁の縁紋から先を除いて橙色。
・複眼の発色が写真4の♀に比べて弱い(これは成熟途上のため)。

草むらには、別の未成熟♂も同じように草にぶら下がり、とまっていました(写真6)。‏‎(時刻:11:33:36)

ベニトンボ♂未熟 
写真6 ベニトンボ Trithemis aurora ♂未熟 (別個体)

腹端部が草に隠れていて、作品としては不合格ですが、翅胸側面の模様が見えていることや、翅がまだ硬化しきっておらず、後縁部を含め翅脈の黒化が進んでいないことが見てとれることから、掲げます。

硬化や黒化が進んでいないことから、羽化後まだ日が浅い個体であることがわかります。


ベニトンボ成熟♂

写真掲載順が前後しましたが、未成熟♂よりも先に、土手の草むらで見つかったベニトンボ成熟♂がこれです(写真7)。(時刻:11:22:36)

ベニトンボ♂ 
写真7 ベニトンボ Trithemis aurora 

体軸を水平よりも30度ほど前傾させています。

草むらですので、婚活というより、採餌がメインでしょう。

したがって、餌になる昆虫が多そうな方向に体軸を向けているものと思われます。

実際、土手も画面右下方向に傾いていて、草の茎頂や葉先付近を飛び回る小昆虫は、このトンボが向いている方向の視界を多く横切るはずです。

背景中央部の黄色い部分は、キク科植物の頭花部分です。

写真8は、別の♂個体です。

ベニトンボ♂ 
写真8 ベニトンボ Trithemis aurora ♂ (別個体)

写真5写真6の未成熟♂がぶら下がり傾向だったのに対し、写真8の♂は見事に体を水平にキープしています。

もしかすると、婚活中の♀は、単に♂の着飾る衣装の鮮やかさに惹かれるだけでなく、♂の精悍さや機敏さも密かに品定めしているのかもしれません。

もしそうだとしたら、このように綺麗にバランスをとり、いつでも飛び立てるような態勢でとまる♂は、♀達のお眼鏡にかなうのではないでしょうか。

写真9は、更に別の♂個体です。

ベニトンボ♂ 
写真9 ベニトンボ Trithemis aurora ♂ (別個体)

背面からのショットです。

翅基部の暗赤褐色の斑紋が、「われ、ここに在り」と言わんばかりの存在感を放っています。

写真1(再掲)も別個体です。(時刻:11:29:24)

ベニトンボ♂ 
写真1(再掲) ベニトンボ Trithemis aurora ♂ (別個体)

写真1は、写真7を左右逆にしたようなシーンですが、キク科草本のしおれた黄色い花びらにとまっている小技を買いました。

写真10は、写真1と同一個体です。

ベニトンボ♂ 
写真10 ベニトンボ Trithemis aurora ♂ (同一個体)

顔が正面から見えるショットです。

その、顔の部分をトリミングして拡大したのが、写真10Bです。

ベニトンボ♂部分拡大 
写真10B ベニトンボ♂部分拡大 (写真10と同じ)

ベニトンボ♂の顔をこの角度から見ると、前額*の背面に金属光沢のある濃青紫の斑紋があり、歌舞伎役者の隈取りのように、存在感を強めている印象を受けます。

(*注:前額[ぜんがく]とは、頭部で、複眼よりも前方の部分のうち、上半分の部分。ただし、単眼や触角が出ている額瘤[がくりゅう]を除く。)


水辺でナワバリ占有するベニトンボ♂

20分ほどで土手の草むらでのトンボ観察を終えて、コンクリートで固められた堤体の水辺方向に目をやると、そちらでもベニトンボ♂が活発に活動していました。(時刻:11:34:54)

その♂は、コンクリート斜面の、水辺から15cmくらいの位置にとまり、水面方向をじっと見ています(写真11、12)。

ベニトンボ♂ 
写真11 ベニトンボ Trithemis aurora ♂(別個体)

ベニトンボ♂ 
写真12 ベニトンボ Trithemis aurora ♂(同一個体)

この♂は時おり飛び立って、水面上をパトロール飛行し、またほぼ同じ位置に戻ってとまる行動を見せていました。

私が堤体づたいに少し移動すると、今度は、水面から突き出した枯れ枝の先端にとまって、なわばり占有している別のベニトンボ♂がいました(写真13~18)。‏‎(時刻:11:44:02)

ベニトンボ♂ 
写真13 ベニトンボ Trithemis aurora ♂  (別個体)

写真13では、体後部を水平に対して60度ほど挙上させています。

枯れ枝にできた蔭からわかるように、腹部を太陽光線に対して平行になる方向ではなく、直角といっても過言でない方向に保持していることから、受光量を減らして体温上昇を防止するための腹部挙上姿勢ではないことがわかります。

ベニトンボ♂ 
写真14 ベニトンボ Trithemis aurora ♂(同一個体)

写真14は、ほぼ真正面です。
この角度から見ると、♂の左右に広がった腹部、そして少しすぼめた左右の翅が構成する左右対称の立体造形は、なかなかの美術作品です。

♂の体色の紅色化をもたらしたのが、♀による♂選択*であったとしたら、ベニトンボの祖先の♀にも、人間に劣らない審美眼があったのでは、と考えるのは買いかぶりすぎでしょうか。

(*注:このほか、♂同士の なわばり争いに紅色が有利であったことが、より紅色の強い♂がより多く交尾し、より多くの子孫を残せたという、♂間の同性間選択という進化過程も考えられます。)

写真15は、同じ♂個体ですが、左前脚で左の複眼の表面をこすっています。
 
ベニトンボ♂ 
写真15 ベニトンボ Trithemis aurora ♂ (同一個体)

何か塵でもついていたのでしょうか?

写真16も同じ♂です。

ベニトンボ♂ 
写真16 ベニトンボ Trithemis aurora ♂ (同一個体)

腹部第5~7節付近の左右幅の広がりが印象的です。

写真17も同じ♂ですが、何かを目で追うように頭部を右下方向に向けています。

ベニトンボ♂ 
写真17 ベニトンボ Trithemis aurora ♂ 右向く (同一個体)

写真18も同じ♂です。

ベニトンボ♂ 
写真18 ベニトンボ Trithemis aurora ♂ (同一個体)

写真16とほぼ同じ角度からの写真ですが、腹部がやや長く、横幅もやや狭く見えます。

この違いに、当初、別個体の可能性を疑いましたが、翅脈の細部までも一致していたので、同一個体と確認できました。

撮影角度(写真18はほぼ真横の斜め上から、写真16は、やや後方のより背方から)の違いが影響したのでしょう。

このほかに、呼吸運動によって、腹部が上下方向に膨らんだり凹んだりするケースも考えられ、その影響もあるかもしれません。


なわばり防衛戦略について

以上、写真13から写真18まで、同一♂個体がとった様々なポーズをご紹介しました。

お気づきのように、1枚ごとに体軸の水平面上の向きが替わっています。

これは、飛び立ってパトロールしてすぐに戻ってとまるのを繰り返していたためですが、その中には同種♂個体を軽く追い払って戻ったケースもあったことから、池の岸近くの水面の一定範囲を連続的に占有し、同種♂に対して防衛する なわばり防衛という戦略(行動オプション)をこの個体が採用していたことがわかります。

言うまでもなく、そこにやってくる♀を真っ先に発見して連結・交尾する機会を最大化できる利点benefitをなわばり見回り、防衛というコストcostを払ってわが物にしていることになります。

利点・コストの差引勘定は最終的に残した子孫の数で表わされることになります。


次回以降記事予告

この池ではベニトンボの成熟・未熟成虫に加えて、羽化殻も観察することができました。
それについては次回記事で報告します。

また、他にも、マユタテアカネ、ヤマトシリアゲ(シリアゲムシ科)も観察していて、それらについては次々回記事で取り上げます。


謝 辞
現地に案内して下さった飯田貢さん、観察中にアドバイスされた、飯田さん、山本桂子さん、高橋賢悟さんに謝意を表したいと思います。


引用文献

尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012) 『日本のトンボ』。 文一総合出版。

杉村光俊・石田昇三・小島圭三・石田勝義・青木典司 (1999) 『原色日本トンボ幼虫・成虫大図鑑』。北海道大学図書刊行会。


☆★☆ ブログランキング(↓):よろしければ両方ともクリックして応援してください。
| トンボ:形態と機能 | COM(0) | | TB(-) |
コメント







管理者にだけ表示を許可する