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2019-03-30 (Sat)
本シリーズ「さいたま市境、羽根倉橋から見た関東の山々」では、昨年1月7日(快晴の日)の午前11時過ぎに さいたま市西端の荒川にかかる羽根倉橋から眺望・撮影することができた山々を紹介しています。

14回目の今回記事では、関東山地のうち南部フォッサマグナ地域に属する個々の山々の第一弾として大室山写真1)を、望遠クローズアップ写真に地質データや人間社会との関わりに関するトリビアを添えて、紹介します。

大室山、さいたま市運動公園より 
写真1 大室山(さいたま市荒川畔の運動公園から;2019年3月18日;コントラスト調整済)(写真はクリックで拡大します)

目 次
◆南部フォッサマグナ:おさらい
◆大室山
◆大室山(大群山)の山名の由来
 1)丸(マル)は山の意
 2)古代朝鮮語のモリがモロ、マル、ムレへと転訛?
 3)大ムレ権現から山名再考
◆大室山は富士山をどう隠す?
 1)『甲斐国志』から
 2)大室山に隠れた富士山:外部リンク写真の紹介
◆大室山とその一帯は横浜市民の命の水を涵養する
◆河川上流の森林保全・水資源利用を巡る情勢
◆次回予告
◆引用・参考文献
◆山座同定のテクニック
◆ハッシュタグ


南部フォッサマグナ:おさらい

南部フォッサマグナに属する山々を総覧したパノラマ写真が、こちらの過去記事に写真1~3として掲げてあります。

南部フォッサマグナの位置地形については前々回の記事を、地史(成因)については前回記事を、それぞれご覧ください。


大室山

さいたま市から見える南部フォッサマグナに所属する山のトップバッターは、大室山(おおむろやま・おおむろざん;1587m)です(写真1~3)。

大室山(富士隠し)と富士山 
写真2 大室山(富士隠し)と富士山(さいたま市運動公園から望む)

大室山 
写真3 大室山(さいたま市境、羽根倉橋から望む)

写真2で右隣に聳える富士山も南部フォッサマグナに属しますが、超大物ですので、丹沢山地の各山の紹介が終ってから、最後に登場してもらうことにしました。

写真3では、手前の鉄(街路灯)が邪魔ですが、シリーズタイトルに忠実に羽根倉橋の上から撮影した写真として掲げています。

大室山は、山梨県と神奈川県の境にあり、かつては「大群山(おおむれやま)」とも呼ばれていたそうです(Wikipedia)。

大室山の地質は、新第三紀の前期~中期中新世の付加体で海洋性の玄武岩です(地質図Navi)。


大室山(大群山)の山名の由来

大室山、そしてその別名である大群山の山名にはどのような由来があるのでしょうか?

このあたりについての考察が、木暮理太郎(1941)の『山の憶い出 下』(龍星閣)所収の「マル及ムレ」(青空文庫公開)の中に見られますので、以下に紹介します。

なお、引用文中の、<>で括った文言は引用者(生方)による注釈です。

1)丸(マル)は山の意

木暮(1941)は、まずマルに着目しています。

「都留郡及び其四近には、丸と名の付く山が相当にある。試に之を列挙すると都留郡に<中略>本社ヶ丸<中略>鎮西ヶ丸<中略>大倉高丸<中略>赤谷ノ丸、鳥屋ノ丸<中略>などがあり、相模国に<中略>畦ヶ丸<中略>檜洞丸*<中略>茅丸などがある。」

(*注:この檜洞丸は、本シリーズの次回記事で取り上げます。)

「<中略>此等の地方が百済人や高麗人に依りて早く開拓されていたことに注意するならば、<中略>其等の人々が将来<引き連れてくること>した言葉ではないか<中略>。事実マルを意味する韓語に外ならないのである。」

2)古代朝鮮語のモリがモロ、マル、ムレへと転訛?

木暮(1941)は、続けて述べます。

「現在朝鮮では山をモイ*というている。しかし古くはモリ<原注>であった<中略>。このモリがモロとなった例はあるが、モがマに転じた例はまだ思い当らない。金沢博士に拠れば済州島では今も平地に孤立した山をマルと称しているそうである<中略>。」

<原注:「甲斐にもモリと名の付くは可なりある、『甲斐国志』を一瞥した丈だけでも山梨郡に石森、<中略>中津森、水ヶ森があり、巨摩郡に美森、<中略>、離レ森、<中略>鈴ヶ森、鷹森がある<中略>。是等は主に小山であってアイヌ語のモリと能よく一致している、<中略>今も甲州の老猟師が往々口にする所で、<中略>笊<ざる>ヶ岳を笊ヶ森と呼んでいるのである。」>

「<中略>ムレは、モロがムロとなりムレとなったのかも知れぬ、山をムレ**と読ませる例は『書紀』や『続日本紀』に多く載せてある。辟支山ヘキノムレ、古沙山コサノムレ、谷那鉄山コクナテツノムレ<中略>怒受利之山ヌスリノムレ<中略>」

(*注:Wiktionaryの英語版によれば、現代の韓国語で山を意味するものとして산〔山:san〕<サン>、뫼 〔墓・山:moe〕<モエ>、메 〔山・丘:me〕<メ>の語が用いられる。)

(**注:精選版 日本国語大辞典には、「むれ【牟礼・山】:[1] 〘名〙 (古代朝鮮語から) のこと。日本では、「牟礼」などと表記して地名になったものも多い。」とあります。;同様に、Wiktionaryの英語版によれば、「山」を古代日本語で「むれ」と読み、この発音は古代朝鮮語で「山」を意味する「牟禮 」(morye)<モリ>から借用していて、「牟礼」の字も充てられる 〔参考:古代朝鮮語ではmoroという発音も。また、中世朝鮮語ではmwoy〕とのこと。)

注記で明らかなように、ムレマルモリとともに、古い日本語でを意味していた言葉であることは確かです。

木暮(1941)は、続けて述べます。

都留郡にはマルの付く山は多いが、ムレは甚だ少なく僅に四座あるのみである。道志村<の>大群山大室山><と>殿群山、西原村<の>大群山権現山*)、棡原村<の>小勢籠山<中略>」

(*注:本シリーズ記事のこちらの過去記事で取り上げた権現山 (ごんげんやま;1312m) (=大勢龍山;おおむれさん)です。)

3)大ムレ権現から山名再考

木暮(1941)は、続けて述べます。

「<ムレのつく>山は少ないが其代りとして、大ムレ権現を祀った社は頗る多い、それがほぼ道志山塊を境として南北の二群に分れ、に在る者は富士隠し*の異名ある大群山を中心とし、に在る者は権現山を通称とする大群山を中心としている。」

「即ち<中略>大室権現<中略>『大室山ノ名ニテ本村(道志村)ノ東南ニアリ、高山ニシテ富士ノ東面ヲ蔽ヘリ、故ニ武蔵ニテ之ヲ富士隠*ト云。此山上ニ神祠アリ大室権現ト号ス。』(以上『甲斐国志』)<中略>大室社<中略>。これはの一群でムレにの字が充ててある、ムロと読むのであろう。」

つまり、の一群とかかわりを持つ方の大室山は「大きい山」のことであるオオムレが元の名で、その後オオムロに転訛し、大室の漢字が充てられたと考えられます。

大群山の漢字名の起こりは、このオオムレに「大群」の漢字が充てられた後、意味を確かなものとするために「」が添えられたものと思われます。

(*注:富士隠しについて、大室山富士山をどのように隠しているのかを、今回記事でこの後取り扱います。)

木暮(1941)は、続けて述べます。

「之に反しての一群<下記>はムレに多く勢籠の二字を用いているが、其理由は判断しかねる。大勢籠れば即ち大群であるという洒落でもあろうか。」

大室社<中略>大牟礼社<中略>王勢籠(於々勢以呂宇)権現社<中略>大室権現<中略>大勢籠オホムレ権現(西原、浅川、野田尻ノ堺大勢滝山ノ峰ニアリ。)社人和見村ノ名主、<中略>此神犬ヲ使フコト七拾五匹、此犬ヲ頼ム時ハ能ク盗賊火難ヲ防ギ守ルトテ、近郷ノ農人名主カ家ニ犬借リニ来リ、札ヲ請テ帰レバ犬必ズ来テ家内田畠ヲ守ルト云、但其形人ノ目ニ見ユルコトナシ<中略>。(以上『甲斐国志』)」

権現山*にまつわるの一群の社の名称には大室のほか、大牟礼があることから、こちらの山も元々は「大きい山」のことであるオオムレであったと考えれらます。

(*注:前述のように、権現山については、本シリーズ記事のこちらの過去記事で、すでに取り上げています。)

ところが大勢籠はオオセロウとは読めてもオオムレとは読めません。

引用文中の大勢籠にも万葉仮名の「於々勢以呂宇」<オオセイロウ>が添えられていることから、どうやら、オオムレに大勢籠の漢字を充てたのではなく、山の名とは独立に「大勢が籠る*(社)」という意味からこの山を信仰・修行の場とした社に付けられた名称であると思われます。

セイとムの音の根本的な違いに目をつむれば、オオセイロウとオオムロウには音韻の類似性があることから、山の名、つまりオオムレ/オオムロを大勢籠の読み方として借用したということも考えられます。

(*注:学研全訳古語辞典(2019アクセス)では、「籠る」(こもる )の意味の4番目に、「④寺社に泊りこむ。参籠(さんろう)する。」とあります。

大室山、大群山の山名の由来についての考察(大部分は、木暮〔1941〕からの紹介ですが)はこのくらいにしておきます。


大室山は富士山をどう隠す?

上に引用した木暮(1941)の文章にもあるように、大室山富士隠しの異名を持ちます。

今回記事の写真2では、大室山は左脇に侍り、富士山に対して頭を垂れているかのような佇まいなのですが、どんなふうに隠しているのでしょうか?

1)『甲斐国志』から

その前に、このことが古文書にどのように書かれているかについて、もう少し見てみましょう。

以下、「とよだ 時」さんのブログ記事「丹沢・富士山隠しの大室山」(2019アクセス)からの間接引用です。

「江戸時代1814(文化11年)、松平定能(まさ)という人が編集した地誌『甲斐国志』の(巻之三十七・都留郡郡内領)に『大群山高山ナリ麓ヨリ登ルコト五十余町頂ニ大群権現ノ社アリ此ノ峯富士ノ東面ヲササ(遮蔽)フ故ニ武蔵ニテ富士隠ト云フ西ハ諸窪澤ニ續キ戌ノ方ニ椿澤北ニ大ザスアリ峰ヨリ北ヘ分カルゝヲネハ其末道志川ノ間ニ出ツ』とあり、『富士隠し』の名はかなり古くから呼ばれていたようです。」

この記述からは、江戸時代の文化年間にはすでに「富士隠し」の別名が存在していたことがわかります。

2)大室山に隠れた富士山:外部リンク写真の紹介

では、実際、大室山はどのあたりで富士山を隠しているのでしょうか?

そこで、例によって、Googleマップの3D航空写真で、富士山が大室山の背後に隠れて見える地図上の地点を探ってみました。

その結果、八王子市片倉町にある東京工科大学八王子キャンパス内に聳える片柳研究所のビルからなら、この二つの山の方向がピッタリ一致するだろうという見当がつきました(こちらの画像;Googleマップ;外部リンク)。

そしてこの「片柳研究所」と「富士山」を検索語に画像をGoogle検索したところ、同大学の上野研究室(2014)の記事中の写真(こちら;外部リンク)がヒットしました。

その写真では、予想通り富士山と大室山の方向が完全に一致し、富士山は大部分隠されていますが、大室山の頭越しにお盆のような山頂部を覗かせ、左右に優美な両の撫で肩を見せています。

この方角から更に大室山に近づくと、富士山は大室山に完全に隠されるようになるはずです。

実際、八王子から圏央道、津久井湖を越えて、相模原市緑区牧野の伏馬田から菅井に向かう途中の道路(道志川第二発電所〔Googleマップの3D航空写真はこちら;大室山とその背後の富士山も上空から見えている;外部リンク〕の左岸の少し下流の斜面上)まで接近すると、この画像(GoogleマップのStreetView;外部リンク)中央のように、富士山を背後に完全隠している大室山を見ることができます。 


大室山とその一帯は横浜市民の命の水を涵養する

横浜市のホームページ(2019アクセス)によれば、大室山北斜面を含む道志村の山林の大部分(2873ha)は、横浜市が所有する水源林となっています。
これは道志村の総面積の約36%に相当するそうです。

この森林に涵養された道志川のは「赤道を越えても腐らない」と賞賛される(横浜市、前出)良質の水を横浜市民に供給しています。

ヒノキを中心とした人工林が762ha、ブナなどの広葉樹やモミ・ツガなどの針葉樹の天然林が1799haあるといい(横浜市、前出)、この水源林は生物多様性の保全にとっても重要な役割を果たしています。

横浜市がこの森林を買収するに至った経緯は、山岳伝承「ひとり画がたり」さんのブログ記事(2019アクセス)に、簡潔に紹介されています。


河川上流の森林保全・水資源利用を巡る情勢

上に見たように、また、東京都の水源林になっている多摩川上流部(こちらの過去記事参照)もそうであるように、天然林に近い森林が保存された河川上流部は、良質かつ安定した水資源の供給にとっても、治水、野生生物保護にとっても、大変重要な意味を持ちます。

そんな中、ここ数年に全国各地の山間部・河川上流域の広大な土地が外国の投資家によって買収されているという現状が明らかになっています(例:農林水産省 2016、日刊SPA! 2019)。

それに加えて、水道事業を「民営化」しやすくする改正水道法が国会で成立しました(朝日新聞デジタル 2018)。これについては、水道料金の値上げや水質の低下などが懸念されていましたが(例:長嶺超輝 2017)、払拭されてはいません。

これからの日本の先行きで、安全・安心な水の安定した供給と森林生態系の保全が脅かされないよう、注視し、行動していくことが求められます。


次回予告

次回記事では、南部フォッサマグナ地域に属する山々の2回目として、檜洞丸ほかの山を、望遠クローズアップ写真に地質データや人間社会とのかかわりを添えて紹介する予定です。


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引用・参考文献

朝日新聞デジタル(2018)水道民営化の導入促す改正法が成立 野党「審議不十分」
https://www.asahi.com/articles/ASLD63392LD6ULBJ002.html

地質調査総合センター(2019 アクセス)地質図Navi.産業技術総合研究所. 
https://gbank.gsj.jp/geonavi/geonavi.php#9,35.512,139.485

学研全訳古語辞典(2019 アクセス)Weblio 辞書:籠る
https://kobun.weblio.jp/content/籠る

木暮理太郎(1941)「マル及ムレ」『山の憶い出 下』(龍星閣)所収、龍星閣/青空文庫
https://www.aozora.gr.jp/cards/001373/files/56557_56999.html

長嶺超輝(2017)「水道民営化」法で、日本の水が危ない!?
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/07/post-7936.php

日刊SPA!(2019) 外国人による日本の土地買収が激化 北海道や長崎、沖縄も.
https://nikkan-spa.jp/1538120

農林水産省(2016) 外国資本による森林買収に関する調査の結果について.
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/keikaku/160427.html

山岳伝承「ひとり画がたり」(2019 アクセス)山の伝承「丹沢・富士山隠しの大室山」
https://blogs.yahoo.co.jp/toki3son/42713682.html

精選版 日本国語大辞典(2019 アクセス)コトバンク:牟礼・山。
https://kotobank.jp/word/牟礼・山-2086830

とよだ 時(2019 アクセス)「丹沢・富士山隠しの大室山」http://toki.moo.jp/merumaga/yamatabi/yamatabi05.html

上野研究室/東京工科大学工学部応用化学科有機合成化学研究室(2014)「2014/12/3 八王子キャンパスからの富士山」
https://sites.google.com/a/edu.teu.ac.jp/ueno/diary/2014123bawangzikyanpasukaranofushishan

ウィキペディア(2019 アクセス)(個々の山についての一般的な知識について参照した).
https://ja.wikipedia.org

wiktionaryの英語版(2019アクセス)
https://en.wiktionary.org/wiki/山https://en.wiktionary.org/wiki/산https://en.wiktionary.org/wiki/뫼
https://en.wiktionary.org/wiki/메 


山座同定のテクニック:
このシリーズ記事で採用している山座同定のテクニックについては、シリーズ初回記事に詳しく紹介してありますのでご参照ください。


ハッシュタグ:
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