03≪ 2017/04 ≫05
123456789101112131415161718192021222324252627282930
2014-11-05 (Wed)
オツネントンボが、トンボ目の中で例外的に成虫で越冬することは、以前の記事でお話しました。

オツネントンボ ♂
 ↑オツネントンボ♂(生方撮影:クリックで拡大します)

同じように成虫越冬する種は昆虫の他の目にも散見されます。

それらのうち、クジャクチョウ、ケブカスズメバチ、ヒメバチの一種(Chasmias sp.)、オオルリオサムシなどでは体内にグリセリン(グリセロール)がかなりの量で蓄積され、これが細胞の凍結(それは多くの場合、虫の死に直結する)を防止することが知られています*。

越冬前に、昆虫の体内組織である脂肪体で、主としてグリコーゲンからグリセリンが生合成されます*。
それが血液を通して体の各部に行きわたることで、外気温がマイナス20~25度Cくらいまでは、細胞が過冷却の状態を維持し、凍結を免れる、という分子の物理化学的性質を使いこなした適応を、これらの昆虫では獲得しています*。

グリセリン**のほかにソルビトール、トレハロースなども凍結防御物質であることが知られています*。
私たちが乗るガソリン車のラジエーターの冷却液も北国では凍結防止のためにエチレングリコールが水に加えられていますね。
昆虫が遺伝子に刻み込んでいる自然淘汰の智慧と、人間の発明とが、同じ原理(圧倒的な分子量****により、氷結に必要な水分子の相互作用に干渉する***)の恩恵にあずかっていることになります。

凍結防御には、これ以外にも次のような対処の仕方があります***:
―細胞に氷が触れると細胞が凍結を開始しやすいので、触れないように隠れる。
―体表のクチクラは水をはじくようにワックス成分で覆う。
―消化管内の食物破片、バクテリアなども氷結核になりやすいので、秋のうちに食べるのをやめて消化管を空にする。
―不凍たんぱく質(antifreeze Protein)を合成し、この分子が顕微鏡的サイズの氷の結晶に結合してそれ以上の氷の成長を妨げる(その場合、アミノ酸とくにシステインの側鎖が氷の結晶中の水分子の並びと寄り添うことで作用する)。

オツネントンボをはじめ、越冬するトンボがどこまで、これら物理化学的適応戦略のうちのどれを採用しているかは今のところ不明ですが、冬の貴婦人(オツネントンボの英名の直訳)たちは、どうやらコートやストールといったファッションではなく、体を内部から体質改善し、寒さに備えるという、見かけではわからないオシャレをしているようです。

注:
*朝比奈英三(1991):『虫たちの越冬戦略』北海道大学図書刊行会。・・・著者はトンボ学者、朝比奈正二郎先生の弟で、幼少時からご一緒に昆虫採集をされた由。私(生方)の修士論文発表会の際ににこやかに質問して下さったことが昨日のことのように思い出されます。

**グリセリンは耐凍性のみならず、虫体の乾燥防止の機能ももっているようです***。

*** Storey, K. B. & Storey, J. M.: Animal cold hardiness. http://http-server.carleton.ca/~kbstorey/pdf/559.pdf. Retrieved on November 5, 2014.

**** ヒメハマキガの一種Epiblema scudderianaでグリセリンが体重の20-25%にまで増加して耐凍性を担保していることが知られています***。


ブログランキング(↓):両方ともクリックで応援してください。



にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ
にほんブログ村


| 昆虫:発生・生理 | COM(0) | | TB(-) |
コメント







管理者にだけ表示を許可する