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2019-12-07 (Sat)
11月30日、東京の国立科学博物館上野本館で開催された「第35回国際生物学賞記念シンポジウム」(写真1)に参加し、受賞者のナオミ・エレン・ピアス(Naomi E. Pierce )博士の講演「Insect relationships」をはじめ、ピアス博士とゆかりのある、アメリカ、ドイツ、シンガポールからの7人、日本からの3人による世界トップクラスの研究についての講演を拝聴してきました(初回記事で既報)。

今回シリーズ記事第3として、当日の講演の6番目からの3題についての内容紹介と感想を記します(当日配布されたシンポジウム予稿集を参考にしています)。

目 次:
 ◆蝶の適応放散における擬態の多様さの生物地理
 ◆蝶類における新規の複合的形質の進化
 ◆ゲノム編集はオオカバマダラにおける毒抵抗性の進化を再現する

国際生物学賞記念シンポジウム、プログラムと資料
写真1 国際生物学賞記念シンポジウム、プログラムと資料(回記事から再掲) (写真はクリックすると拡大します)


蝶の適応放散における擬態の多様さの生物地理

6番目の講演は、David J. Lohman博士による "Biogeography of mimetic diversity in an adaptive radiation of butterflies"(蝶の適応放散における擬態の多様さの生物地理)で、以下のような内容でした。

Elymnias(マネシヒカゲ属、マネシジャノメ属、ルリモンジャノメ属の和名が日本の蝶研究者により混用されている;生方注)(鱗翅類:タテハチョウ科:ジャノメチョウ亜科)の大部分の種は、不快な味の様々な蝶に、しかも♂♀がそれぞれ別の種に、あるいは性的2型の種の♂♀にベーツ擬態(=ベイツ擬態;Wikipediaはこちら)する。

◆分子系統解析の結果、互いに遠く離れた系統の間でほぼ同一の翅の色彩パターンが表れていることが判明し、それらが広く分布しているモデル種に、異なるエリアで擬態することで平行して進化したことが示唆される。

◆ルリモンジャノメ Elymnias hypermnestra は、個体群によって性的2型がある場合とない場合がある。

◆2型の個体群は種の中で複数回進化し、隔離分布する個体群間でオレンジ色の♀はオモクローム(茶色の生体色素)の組み合わせが異なっている。

◆これは異なる系統におけるの翅のオレンジ色発色の平行進化を示唆する。♀の2型に関与する単一の遺伝子座も特定された。

私の感想ですが、このように変幻自在といえるほど、環境に適応的な遺伝子突然変異があちこちで生じていることに、生物という存在(というよりもそれを作り上げている物質系の反応力と統合性)の無限に近い能力に感服しました。

※ルリモンジャノメ の整理された多数の標本写真が下記サイトで閲覧できます:
Chia-Hsuan Wei, David J. Lohman, Djunijanti Peggie, Shen-Horn Yen (2017) An illustrated checklist of the genus Elymnias Hübner, 1818 (Nymphalidae, Satyrinae).
ZooKeys 676(676)


蝶類における新規の複合的形質の進化

次の講演は、Antónia Monteiro博士による "The evolution of novel complex traits in butterflies"(蝶類における新規の複合的形質の進化)で、以下のような内容でした。

タテハチョウ科 Nymphalidae の蝶の翅の眼状紋の起源、およびジャノメチョウ科 Satyridaeの複数の系統が持つ、雨季と乾季それぞれに適応的な型を生じるための成育温度に反応する能力の起源についての概要。

マダラチョウ亜科 Danainae と姉妹群をなす蝶の系統の中で、眼状紋が(脚、翅、触覚などの付属肢の色彩パターンに関与する、既存の遺伝子調節ネットワークの再編を通して)どう進化したか。

◆タテハチョウ科の適応放散を通して、(ジャノメチョウ科における、環境温度に反応しての眼状紋のサイズ調節を可能にする )生理と個体発生において複数の変化が漸進的に獲得された。

ジャノメチョウの和名の語義にもなっている、蝶の翅の眼玉模様(眼状紋)には、私も昆虫に目覚めた青年期以来、興味を持ち続けています。

翅の前後や左右の開きを操作して眼玉模様を見せつけて捕食者を威嚇することは、実験条件下での映写フィルムからも納得していましたが、どんな遺伝子がどう働いてあのような模様をつくるのかの解析結果を、今回の講演で初めて目にし、分子レベルでの研究の進展を実感ました。


ゲノム編集はオオカバマダラにおける毒抵抗の進化を再現する

その次の講演は、Noah K. Whiteman博士による "Genome editing retraces the evolution of toxin resistance in the monarch butterfly"(ゲノム編集はオオカバマダラにおける毒抵抗性の進化を再現す)で、以下のような内容でした。

◆収斂進化により、対象としたオオカバマダラ Danaus plexippus (monarch butterfly)を含む昆虫の6つの目(もく、分類階級)でナトリウム-カリウムポンプ (Na+/K+-ATPアーゼ)のαサブユニット(ATPα)の中でアミノ酸の置換が平行しておきている。

◆ATPαは(オオカバマダラの食草であるトウワタが生産する)毒素、強心配糖体のターゲットである。
対象グループで繰り返し起こっている、強心配糖体に特化したATPαにおける3つのアミノ酸サイト(111,119,および122)での置換を突き止めた。

◆CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)式のゲノム編集をキイロショウジョウバエDrosophila melanogaster の手つかずのATPαに実行し、オオカバマダラがたどった突然変異の経路を再現した。

◆その結果、オオカバマダラ並みの強心配糖体への抵抗力・不感受性を維持する、3座位での突然変異個体'monarch flies’(オオカババエ;生方仮訳)が出現した。

◆'Monarch flies'は強心配糖体を、変態の後まで持ち越して、捕食者を怖気づかせた。

ゲノム編集という新語はニュースなどで私も耳にはしていましたが、この研究のように特定の遺伝子の部位の塩基を思い通りに人工的に置き換えて、適応的進化を再現できるようになっているとまでは思ってもいませんでした。

また、強心配糖体への抵抗性を生じる突然変異がゲノムのどの座位にあるかを突き止めるために、収斂進化しているグループを対象に選んで、網羅的に洗い出したというのは、素晴らしい着想としか言いようがありません。

シンポジウムは、まだまだ続きます。

次回記事をお楽しみに。


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