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2014-11-28 (Fri)
11月15日~16日に開催された、2014年度日本トンボ学会大会で、大きくうなずかされたのは、分布記録の証拠としての標本の価値でした。

それは宮崎俊行氏の「平山コレクションの千葉県産『マダラヤンマ』について」*の発表を聞いたときのことです。

マダラヤンマAeshna mixta soneharaiは日本では分布が限られている種ですが、第二次大戦以前には東京でも採集された記録があります。これは、当時の東京の自然環境がまだまだ健全な部分を残していたことを物語るものです。

そんな状況下で、千葉県からのマダラヤンマの記録は、それを報告した平山修次郎氏が参照した日本昆蟲図鑑におけるマダラヤンマの説明図がマルタンヤンマAnaciaeschna martiniだったことなどから、平成の世のトンボ研究者の一部からは誤同定の可能性を指摘されていました。

宮崎氏は、この千葉県のマダラヤンマ標本の保管先を突き止め、実際に標本およびラベルを精査した結果、平山氏の同定は正しかったこと、したがって千葉県に少なくとも過去においてマダラヤンマが生息していたこと、を明らかにしました。

 <以上、宮崎氏の発表からのご紹介です。>

このことは、分布の証拠としての標本にきちんとラベルをつけて、信頼のおける場所(研究者のコレクション、そのリタイア後は博物館等)に保管されていることが、貴重な過去の分布記録の妥当性を担保するという一般論の再確認となりました。

プロ・アマチュアのいかんを問わず、研究のために収集した膨大な昆虫標本は、その研究者が亡くなったり介護を受けるようになった場合、多くの場合、家族によって粗大ゴミ同然の扱いを受けがちで、最悪の場合は本当に廃棄物として処理されてしまいます。

現在、多くの博物館で貴重なコレクションの受け入れの必要性を認識し、実際に受け入れているところが多く存在します。
もちろん、所蔵スペースや管理人員に制限がありますので、一筋縄にはいきませんが。

宮崎氏の発表では、戦前の昆虫図鑑や図譜には上記の例のほかにも誤った図(別種の図など)の使用例が紹介されました。それゆえ、それらの図鑑の記述を根拠に同定し、その結果を報告した昆虫関係雑誌上の記事にはしばしば疑問符をつけざるをえないということになります。

幸い、現在市販されているトンボ関係の図鑑で使用している標本写真・図には、そのような誤りはなくなっています。それはひとえに、日本のトンボ学の父と称される朝比奈正二郎先生の日本産トンボの分類の総整理と全国のトンボ研究者(プロ・アマを問わず)への熱心な指導の賜物といえます。

とはいえ、現在図鑑等で1種とされていたものが、実際は2種以上からなっていたことが後日判明することや、国内産の種に酷似する飛来種を国内産の種と誤認して記録するケースなどは今後も起こりえます。

そこで、私を含め、昆虫分布調査をしている人のモットーに加えるべき(あるいは再確認すべき)点をリストしておきます。
 「その生息地で最初に確認した種については標本を残そう。」
 「もしかすると別種かなと思ったら標本にしよう。」
 「標本にはきちんとラベルをつけよう。」
 「虫に食われないよう保管しよう」、そして
 「リタイアするときは博物館に相談しよう。」

注:
*宮崎俊行 2014. 2014年度日本トンボ学会大会講演要旨集、所収。


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