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2014-12-12 (Fri)
前回の記事「トンボ相とトンボ群集(1):似て非なるもの」の中で、動物群集のデータの記述方式は、観察された種ごとの個体群の密度のリストをベースとしていると述べました。

今回は、トンボに焦点をあてて、動物群集の観察の仕方についてお話したいと思います。

群集は、複数の(通常、多くの)種の個体群から成り立っています。
ですから、群集の構造を明らかにするためには、構成するそれぞれの種の個体数を客観的、数量的にカウントする必要があります。

しかし、それは一筋縄ではない場合が多いです。

トンボを含め、動物の個体群の密度(単位面積当たりの個体数)は、出生[または孵化](および移入)によって増加し、死亡(および移出)によって増加します。
それゆえ、どの種の個体群密度も時々刻々変動しています。

それではいつ個体数を調べたらよいのでしょうか

こんな調べ方はどうでしょう? つまり、ある種については成虫の数、別の種については幼虫の数をカウントして、それらをひっくるめて群集として取り扱う調べ方。

この調べ方は不適切です。
なぜなら、トンボを例にとると、一方(成虫)は陸上・空中で、他方(幼虫)は水中で生活していますから、まったく異なる資源を利用しています。
ですので、幼虫と成虫を合わせた集合体を、(同一もしくは近似の生態学的ニッチ*を奪い合っているまたは分け合っている、生態学的同業者集団**として扱いうる)群集として取り扱うのはふさわしくありません。

では、どう調べたらよいのでしょうか?
答は簡単です。
幼虫は幼虫群集として、成虫は成虫群集として別個に取り扱えばよいのです。

幼虫群集は、池や川でヤゴ(トンボの幼虫の別名)を網で一定面積を一定回数(または一定時間)掬うことで調査できます。
しかし、実際には、苦労・危険が多いですし、採集効率も低いため、人的・資金的資源に恵まれているケースや、研究のため、中学・高校の部活動のためなどを除いてはあまり行われていません。

もう少し、調査しやすく、効率もよいのは、羽化殻(幼虫が水中から出て成虫になる[羽化する]時に脱ぎ置いた終齢幼虫の外皮)の定量採集です。これは終齢幼虫群集の構成比について、幼虫そのものの調査よりも精度の高いデータを与えてくれる方法です。
しかし、羽化殻の出現時期が偏ること、発見効率の種による違いが成虫に比べて大きいこと、種の同定が成虫よりも圧倒的に困難(これは幼虫にも共通します)なことなどの弱点があります。

真打登場ではありませんが、最後に登場するのは「成虫群集」の調査です。
成虫は、見ればだれでもトンボだと解りますし、最近出ているハンディーで、全種成虫のクッキリとした生態写真が掲載されている本(例、○○)と照らし合わせれば、かなりの正解率で種の同定まで行えるで、群集調査に適しています。
慣れれば目視だけで大部分同定できますので、どんどんカウントできますから、定量調査だからといって飛んでいる個体をすべて採集***して自宅や研究室に持ち帰るなどということも必要ありません(環境[生物多様性]に優しいです)。
(その点、幼虫調査は採集個体をすべて持ち帰り、顕微鏡下で同定するのが基本ですので、群集やその生息地にダメージを与えがちです)

しかし、成虫調査にも問題点があります。
・種によって羽化(ヤゴから成虫になること)する時期が数か月もずれていること、
・未成熟な時期には水辺に出現しないこと、
・天気の悪い日には飛ばないため観察できないこと、
・一日の時刻や気温などの影響を受けて水辺で活動する個体数が変動すること、
・羽化後の日数の経過とともに死亡や移出で個体数が減少していくこと、
などです。

これらの影響を最小限にするために、成虫群集の調査では次のような工夫をします。
・最初の成虫が出現する月(たとえば3月)から最後の成虫が見られる月(たとえば11月)まで、長期的に成虫のカウント調査をする。
・どの種のトンボも活動する天候(通常、晴れもしくは薄曇り)の日、および時間帯(通常、正午をはさんだ数時間)を選んで成虫カウントを行う。
・どの種にも公平にカウントされる機会を与えるために、成虫カウントの日程間隔をほぼ一定にし、それをシーズン全体を通して維持する。
・付け足しになりますが、適切なサイズの調査区をなるべく多くシーズン初期に設定し、その調査区をシーズン全体にわたって調査することが大切です(これは、幼虫や羽化殻についてもいえることです)。

結論として、トンボシーズン全体を通した「成虫」のカウント調査(もちろん、種ごとに個体数をカウントし、記録する)が、トンボ群集の調査対象として実行しやすいですし、他の地域のトンボ群集との比較も可能となる情報量の多いデータを与えてくれます。

次回の記事では、具体的なトンボ群集を取り上げて、トンボ群集の特徴を検討してみたいと思います。

注:
*生態学的ニッチは、生態学的地位ともいい、生態系の中でそれぞれの種が利用する特定の資源の組み合わせをさします。モンシロチョウの幼虫であれば、アブラナ科植物の葉が食物資源との面でのニッチであり、マメ科植物をニッチとしているモンキチョウとは、明白に資源を分割しています。

**生態学的同業者集団はギルドともいいます。ギルドは、西洋史に出てくる強力な同業者組合の名称が語源です。
***ただし、観察した各種についてそのシーズン最初の個体を証拠品として、また目視同定では疑問が残る種についてはその都度、採集して標本として持ち帰り、ラベルをつけて保存しておきます。(以前の記事「困った図鑑にまさる証拠標本の価値」を参照)


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