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2021-09-20 (Mon)
5月上旬の記事「ダイミョウセセリ殿、初めまして!和名・属名の由来を調べさせてもらいました」(こちら)において、ダイミョウセセリ Daimio tethys (Ménétriès, 1857) の写真(写真1、再掲)を紹介したついでに、その和名と属の学名の由来について調べた結果と私の解釈を書きました。

それをご覧になった一読者の方CDT氏*〔Commentator on Daimio tethys〕と呼ぶことにします)から、より詳細な文献調査結果の情報とそれに基づいた学名の由来についての新説や関連する話題からなるコメントを2回にわたって私宛に送ってくれました。

(*注:ご本人が当ブログ記事において実名使用を辞退されたため、このような仮名を採用します。)

以下に、その要旨をご紹介し、それを受けての私の感想や私見を述べたいと思います。

 ダイミョウセセリ
写真1 ダイミョウセセリ Daimio tethys過去記事からの再掲) (写真はクリックで拡大します)


CDT氏の1回目のコメント内容とそれに対する私のリアクション

以下、カギ括弧つきの青色文字の文章はCDT氏からの1回目のコメント(5月9日)から要約したものです。

そして矢印(→)の後の黒色文字の文章は私(生方秀紀)の感想や見解です。

コメントに先立つ茶色文字の部分はコメントの対象となった箇所を私(生方秀紀)の当該記事から抜粋したものです。


I.和名ダイミョウセセリの由来(CDT氏のコメント&それへの私のリアクション)

(1)プライヤーの『日本蝶類図譜』に本種の和名はあるか?

生方(当該記事中のコメント対象箇所):

では、なぜ Murray は Daimio の語を採用したのでしょうか?

その当時、日本ですでに本種が認識されていてダイミョウセセリ、あるいはダイミョウチョウといったような和名で呼ばれていたと仮定し、更に Murray が当時の和名を認識していたと仮定すれば、和名を属の学名に転用したという仮説が構築可能です。

そこで、日本最古の昆虫図鑑をネット検索したところ、プライヤー(Henry James Stovin Pryer)の『日本蝶類図譜』(1886-1889)(出典:斉木、2014)がヒットしました。

プライヤーのこの図鑑の出版年は、Murray が新属 Daimio を記載してから10年以上経過しています。

プライヤーのこの図鑑よりも10年以上前にダイミョウセセリあるいはダイミョウチョウを和名に用いた図鑑はなかったと仮定すると(この仮定は大きくはずれていないと思います)、Murray は自身の一存でダイミョウセセリが属する新属の学名を決めた可能性が高くなります。

<中略>

なお、プライヤーの『日本蝶類図譜』でダイミョウセセリという和名が使われているかどうかは手元にその図鑑がないので不明です(わかり次第、この記事に追記する予定です)。


CDT:
「ブログで取り上げられたダイミョウセセリの和名の件ですが、手元のPryerの蝶類図譜には和名は記されていません。」

  → そうでしたか。有難うございます。外人さんが著した図鑑ですから学名と直訳された簡単な説明文くらいなのでしょうね。

Murray が新属 Daimio を記載してから10年以上たってから刊行された、プライヤーの『日本蝶類図譜』でダイミョウセセリという和名が使われていなかったことがCDTさんのお蔭で確認できました。

Googleで今回調べたところ、プライヤーの『日本蝶類図譜』は英文・和文併載の本で、英文タイトルが”Rhopalocera nihonica : a description of the butterflies of Japan”であることがわかり、この英文タイトルで検索するとpdf化された本書がヒットし(こちら)閲覧できました。

下の写真2はその和文11頁掲載のダイミョウセセリ Daimio tethysについての記述のスクリーンショットです。

『日本蝶類図譜』中のダイミョウセセリの記述
写真2 プライヤー『日本蝶類図譜』中のダイミョウセセリの記述(Copyright Status: NOT_IN_COPYRIGHT

確かに、ここではダイミョウセセリではなく、「タイメウ、テチス、モーレー」とラテン語学名と命名者名を音読みしたもののカタカナ表記が使われています(他の蝶の名も同様)。

これにより、Murray が(和名から転用してではなく)自身の一存でダイミョウセセリが属する新属の学名を決めたことは確実になりました(CDTさんに感謝!)。


(2)ダイミョウセセリの和名が初めて用られたのはいつ?

CDT:
「高野鷹蔵 編(1907)『蝶類名称類纂』 を開いたところ、ダイミョウセセリの和名が初めて用いられたのは、明治33年の宮島幹之助の文献のようです。」写真3

高野鷹蔵 編(1907)『蝶類名称類纂』(319-320頁) 
写真3 高野鷹蔵 編(1907)『蝶類名称類纂』(319-320頁)(CDT氏提供pdfから切り抜き)

  → そんな資料があったのですね。

添付で送っていただいた高野の当該の記述(319頁)(写真3)を見ると、たしかに「だいみやうせゝり(Daimio tethys Mén.)」の項目で出現年代順に並べられた本種の和名の中で、ダイミョウセセリに該当する最初の和名は「だいめやうせゝり」であることと、それが「宮島幹之助-動、雑、12巻305頁(33-9)」によるものであることが示されています。

宮島のこの論文は、国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧することができ(こちら)、たしかに「ダイメヤウセゝリ」の和名が「Daimio tethys Men.」<éがeとなっている>に添えて用いられていました(写真4)。

宮島幹之助文献中の「ダイメヤウセゝリ」
写真4 宮島幹之助(明治33年;動、雑、12巻305頁)に登場の「ダイメヤウセゝリ」

証拠を目の前にしたことで、この蝶の和名と属の学名の命名時期の前後関係が判明し、大変スッキリしました(CDTさんに感謝!)。

ところで、高野も宮島も私は聞いたことがない名前ですが、蝶類研究史を紐解いた方なら御存知なのだろうと思います。

調べてみると、高野鷹蔵は日本山岳会設立発起人として著名な一方、日本博物学同志会に属し、自ら「蝶郎」と号して高山蝶研究に専念した方でした(砂田2017)。

宮島幹之助は、Wikipediaによれば著名な寄生虫学者で『日本蝶類図説』(1904)も書いている人でした。


(3)ダイミョウセセリと呼ばれる前の和名は?

CDT:
「それ以前<明治33年より前><ダイミョウセセリは>クロハネセセリ、あるいはクロハナセセリと呼ばれていたようです。」

  → そうだったのですか、有難うございます。たしかに、高野の319頁の「だいみやうせゝり(Daimio tethys Mén.)」で史上最初に用いられた本種の和名が「くろはねせゝり」で「梅村甚太郎-動、雑、1巻431頁(22-10)」によるものであることがわかりました(写真3
。これは明治22年10月のことです。 

  → そのあと、「くろはなせゝり」を、私も知っている三宅恒方を含む6人の学者が明治25年から38年にかけて用いています(写真3)。このうち、三宅(34年)と長野菊次郎(38年)による「くろはなせゝり」の使用は、宮島の「だいみやうせゝり」を受け入れていなかったことになります。

  → 宮島の「だいみやうせゝり」は松村松年によって34年、37年に踏襲されており、仮名遣いの違いこそあれ、「だいみおせゝり」(市河三喜)、「だいめうせゝり」(今村猛雄、長野菊次郎、松村、高野)の表記で受け継がれています(写真3)。

  → 文化庁HPの「現代仮名遣い 歴史的仮名遣い対照表」によれば、現代仮名遣いの「ミョー」=「みょう」は、歴史的仮名遣いでは「みやう」(例:名代 明日 寿命)または「めう」(例:妙技)と表記されるとのことです。したがって、宮島の仮名遣いが誤っていたとはいえないようです。いずれにせよ、現代仮名遣いにすれば「だいみょうせせり」となるのは明白です。


(4)宮島がダイミョウセセリと改称した理由は?

CDT:
「宮島のこの文献を入手して確認したところ、ダイミョウセセリの和名の由来には触れていないながら、学名が併記されていることから、おそらく学名Daimio tethysをもとにして和名が考案された可能性があります。」

  → これは重要な確認ですね。私の今回の記事の写真4で、私もそのことを再確認できました。

  → 結果として、当該記事での私の「和名のダイミョウは学名のDaimioをそのまま日本語表記にしたものでしょう<要確認>」という推論は、CDTさんの文献に照らした上でのご判断と一致することになり、私としてもささやかな達成感を覚えました。


属の学名 Daimio の由来
CDT:
「Murrayによる属名の原記載文献を熟読しても、学名 Daimio の由来は書かれていませんでした。」(写真5

Murray_1875中のDaimio
写真5 Murrayによる属名Daimioの原記載(CDT氏提供pdfから切り抜き)

  → 熟読とはいきませんが、私も当該記事作成時点で Murray による属名 Daimio の原記載に目を通していますので、CDTさんにも同じことを確認していただいたことになります。

CDT:
「形態の記載には触角の毛のことも特徴的に記述されているので、戦国大名の髭を想起しての Daimio 採用だったのかもしれません。」

  → これには私は気づきませんでした。髭から大名を想起というのは新たな発想ですね。私はCDT氏による新説として評価したいと思います。

Murrayによる属名Daimioの原記載写真5から関連部分を抜き出してみました: 
「The antennae are long and very slender, and terminate in a gradually formed hooked fusiform club. They are provided with a tuft of hair at the base. Th palpi have the second joint covered beneath with squamous seals, whilst the terminal joint is scantily clothed with short hairs.」

上記原文の日本語訳です:
「触角は長くて非常に細く、徐々に形成された鉤状の紡錘状のこん棒で終わる。 それらは基部に毛の房を備えている。下唇鬚(かしんしゅ)の2番目の関節の下面は扁平上皮シールで覆われていますが、末端の関節は短い毛で覆われています。」

本種の触角は長く目立つので、写真1でもすぐわかりますが、下唇鬚はどのような形をしているのかが気になります。

ネットで調べると、昆虫エクスプローラ(2021閲覧)のこの写真(外部リンク)にはっきりと写っていました。

その写真で見ると、ダイミョウセセリの両方の触角の間から鞭のように前方下方に突き出して蜜を吸っているのが吸収管(小顎が変形した器官)で、その管の少し上の左右から出る短い突起が下唇鬚です(テングチョウでは下唇鬚が天狗の鼻のように長く前方に突き出ているそう)。

というわけで、ダイミョウセセリの下唇鬚はどう見ても大名の髭を連想させるものではありません。

やはり、CDT氏が戦国大名の髭に見立てたのは本人も書いているように本種の触角でした。

当ブログの読者の皆様のなかで、「いや、すでにその説は他の人が言っていたよ」という確信をお持ちの方がおられましたら、ぜひ当ブログ記事にコメントしてください。

CDT:

「ブログでは裃説をとりあげていましたが、黒色の裃はあまり例がないのではと思います。」

  → いわれてみれば、裃の場合はたしかにそうですね。紋付ならば黒いものはむしろ普通ではありますが。このパンチは効きました。

  → いずれにせよ、一般的な西洋人が日本の大名の着衣の目だった特徴について目をとめることは十分ありうると思いますが、色の傾向までを把握していたかどうかについては、いかがなものでしょうか? 

  → 往生際が悪いですが、日本の武士の位の中で将軍を除いては最上位で城主でもあることが多い大名については、その、パッと見た印象、つまり服装や所作のほうがイメージとして浮かぶのではないでしょうか?  

  → また、ダイミョウセセリの触角のようなかたちの髭なら西洋の王様や貴族にも普通にみられると思うのですが。。。(といっても、産地が日本なので髭に着目すれば大名になってしまいますが。。。)。

CDT:

「記載の1875年(明治8年)当時は、西洋人にとっては日本は遠い異国の地だったので、Murrayら当時の著者は日本を髣髴とさせるエキゾチックな語感の単語を充てただけの可能性も高いのと思います。」

  → なるほど。これも、私は発想することができていませんでした。CDTさん、流石です。

CDT:

「これに関連して、Murrayの168頁にはコツバメ(現学名:Callophrys ferrea (Butler, 1865))をタイプ種に新属 Satsuma も記載されています。」

  → ちょっと脱線しますが、調べてみたら、Satsumaは現在では、ニホンマイマイ属の正式な学名となっています。Murray が蝶に Satsuma 属をたてた時点で、すでに軟体動物のこのグループの属名に同じSatsuma属が使用されていたため、蝶の方の Satsuma 属はホモニム(異物同名)として消し去られたわけです。

「そして、この属名Satsumaの由来は薩摩と考えられますが、コツバメのタイプは函館です。」 

  → おっと、そうなんですか。それは強烈ですね。

CDT:

「したがって、この場合(も)当時の西洋人が持つサツマという言葉の語感に基づいて新属名の採用がなされたものと思います。」 

  → 薩摩藩は英国と戦闘したこともありましたからね。日本に薩摩あり、といったような認識が広がっていた可能性はありますね。

CDT:

「日本産蝶の中には他にも geisha や harakiri という学名も散見され、当時の研究者の中には軽い気持ちで受けを狙った学名を付けていた人も少なくなかったようです。」

  →harakiriは初めて知りましたが、geishaは私も聞いたことがあります。今でいえば、人種差別的な用語の取り扱いですね。実際、切腹が武家社会の体制維持のために制度的に存在していたので致し方ないことではありますが。

以上で、CDT氏による最初のコメントとそれに対する私(生方)のレスポンスを終わります。

今回のCDT氏とのやりとりをご覧になって何かコメントのある方は、下記のコメント欄を通してお知らせください。


謝辞:
詳細な情報提供とオリジナリティーに溢れた新説をご提案いただいたCDT氏に感謝いたします。


引用文献:

文化庁(2021閲覧)現代仮名遣い 歴史的仮名遣い対照表(キョー~リョー)
https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/gendaikana/huhyo_kyo.html

昆虫エクスプローラ(2021閲覧)昆虫図鑑 :ダイミョウセセリ
https://www.insects.jp/kon-tyodaimyo.htm

宮島幹之助(1900)日本産蝶類圖説。動物學雜誌12巻143號、305頁。
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10826165_po_ART0003828009.pdf?contentNo=1&alternativeNo=

宮島幹之助(1904)『日本蝶類図説』目黒書店。

Murray R. P.  (1874) Notes on Japanese butterflies, with descriptions of new genera and species. Entomologist's mon. Mag. vol.11, p.166-172.

プライヤー(Henry James Stovin Pryer)(1886-1889)『日本蝶類図譜』”Rhopalocera nihonica : a description of the butterflies of Japan”
Publication info: Yokohama :Printed at the Office of the "Japan mail", Published by the author,1886-1889.
https://archive.org/details/rhopaloceranihon00pryerich

斉木健一(2014)平成26年度企画展 図鑑大好き~ダーウィンからはじまる100の図鑑の話~。中央博物館だより、(71):2-3.千葉県立中央博物館発行
http://www.chiba-muse.or.jp/NATURAL/publication/dayori_71.pdf

砂田定夫(2017)山岳会を創った“ハマの岳人たち”(4)高野鷹蔵(1884~1964)。神奈川支部報(日本山岳会神奈川支部発行)。1-2.
http://jac.or.jp/kng-shibuho-7-20171001.pdf

高野鷹蔵 編(1907)『蝶類名称類纂』警醒社.

生方秀紀(2021)ダイミョウセセリ殿、初めまして!和名・属名の由来を調べさせてもらいました。トンボ自然史研究所ブログ.
http://dranathis.blog.fc2.com/blog-entry-830.html

梅村甚太郎(1889)明治廿二年三月ヨリ同八月ニ至ル迄福島近傍ニテ捕集セシ蝶類  動物学雑誌、1巻12号430-432頁。

Wikipedia(2021閲覧)宮島幹之助
https://ja.wikipedia.org/wiki/宮島幹之助



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