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2014-12-16 (Tue)
前回の記事では、動物群集の観察の仕方を取り上げました。

今回はそうやって観察したトンボ群集の構造の一例を見ていきます。

群集の構造は、一般に、それを構成する種の個体数の比率のリストで表現されます。

下のデータは私が(若いころ)実際に観察した札幌市のH沼のトンボ群集のものです(Ubukata 1974*)。

   *      *      * 

札幌市のH沼のトンボ群集

種名(和名) ・・・・・・ 個体数
エゾイトトンボ ・・・・・・ 717
アオイトトンボ ・・・・・・ 670
オオルリボシヤンマ ・・・・ 342
オツネントンボ ・・・・・・ 166
コサナエ ・・・・・・・・・ 120
カラカネトンボ ・・・・・・・ 88
タカネトンボ ・・・・・・・・ 26
カオジロトンボ ・・・・・・・ 14
アキアカネ ・・・・・・・・・ 2
ノシメトンボ ・・・・・・・・ 1
ムツアカネ ・・・・・・・・・ 1

    *      *      *

調査の方法は次のとおりです。
1971年の5月下旬から9月下旬まで、毎週1回、温暖な日の午後1時を挟んだ時間帯に、沼を1周して目視同定して成熟成虫の個体数を記録しました。

こう書くと簡単そうですが、1周222メートルの沼の岸の半分以上は沖に浮き出たヨシ湿原マットですので、歩くと沈み、下手をすると腰まで沼にはまってしまう、ちょっと冒険性のある作業です。

話が少し反れてしまいましたが、H沼の群集構造といって、この個体数データを見せられてもなんの変哲も感じないのが普通だと思います。
このリストを見た、トンボのことを少しでも知っている方の感想は、
「エゾイトトンボやアオイトトンボが多いんだな。」、「全部で11種類か。」、「アカネ属が意外と少ないな。」といったようなものになるでしょう。

構造」というからには、何かそれをプロデュースする力あるいは法則のようなものがあってもよさそうです。

種ごとの個体数が出ていますから、それをグラフに表してみてはどうでしょう?

横軸には、個体数の多い種の順に順位をつけて、その順位を充てます。

縦軸はどうしましょう?
個体数の実数のままでは、個体数の並んだだけの表を単にグラフにするだけで、あまり新しい発想を生みそうにありません。
そこで、縦軸を個体数の対数**にしてみましょう。

下のグラフ2枚のうち、上の1枚がH沼のものです。
下の1枚は同様の方法で示した、北海道釧路湿原T沼***のトンボ群集のものです(生方・倉内 2007****)

いかがでしょう?
かなりきれいに右下がりの直線のまわりにデータが集まっています。
とりわけT沼ではその傾向が強く出ています。

トンボの群集構造の例
 ↑クリックで拡大します。

これらの群集の(サンプルでなく)母集団の個体数が完全に直線に乗っていたと仮定すると、順位 i 番目の種の個体数は順位 i - 1 番目の種の個体数の r 倍である関係が、順位2番目から順位最後の種までの全てに当てはまることを意味します(rは公比で、0<r<1)。

すなわち、それぞれの種の個体数は等比数列をなしていることになります。

これは元村勲が1932年に湖底の動物群集の構成種の個体数の間に横たわる規則性として見出したもので、動物群集の等比級数則と呼ばれています*****。

数式表現では、logNx=b-ax となります******。

等比級数、すなわち等比数列の総和は簡単に計算できますから、個体数の少ない希少種がまだサンプルされていない群集においても、それら未発見の種を含めた(この場合、底生動物の)総個体数(より厳密には総個体群密度)が推定できてしまうのが、面白いところです。

公比rが小さい(即ち、隣の順位の種との個体数の違いが大きい)群集では、グラフに当てはめた直線の傾きが急になり(aの絶対値が大きくなり)、rが大きい群集では傾きが水平に近づきます(aの絶対値が小さくなります)。

後者では、それに伴い、より多くの種が含まれる、より種多様性の高い群集であることを意味します。
このことを利用して、aの逆数「1/a」が群集の多様性の指数として使われることがあります。

H沼とT沼を比較しても、グラフで直線の傾きの小さい(したがってaの逆数がより大きい)T沼のほうが多様であることがわかります。

すべての動物群集が元村の等比級数則どおりに、片対数グラフで直線に回帰するわけではありません。
そのため、対数級数則、対数正規則、ほかいろいろなモデルが提案されています*******。

次回の記事では、H沼やT沼のトンボ群集を念頭に置いて、トンボ相とトンボ群集の関係について考察したいと思います。

注:
*Ubukata, Hidenori, 1974: Relative Abundance and Phenology of Adult Dragonflies at a Dystrophic Pond in Usubetsu, near Sapporo JOURNAL OF THE FACULTY OF SCIENCE HOKKAIDO UNIVERSITY Series ⅤⅠ.ZOOLOGY, 19(3): 758-776.

**今回は縦軸を常用対数にしました。底(てい)が10ですので、対数の値が1上がるごとに個体数は10倍になります。

*** T沼の全周は、H沼の20倍以上ありますし、個体数カウントは一周ではなく、11カ所の調査区(各、岸に沿って10メートル)で行いました。

****生方秀紀・倉内洋平, 2007: トンボ成虫群集による湖沼の自然環境の評価―釧路湿原達古武沼を例に―。陸水学雑誌, 68: 131-144.

*****元村 勲 1932: 群聚の統計的取扱に就いて。動物学雑誌、 44(528), 379-383.

****** Nxは順位xの種の個体数、a、bは定数。bは順位1の種の個体数を(1-r)で割った数に相当します。

*******たとえば、Ferreira, FC. and Petrere-Jr., M. 2008: Comments about some species abundance patterns: classic, neutral, and niche partitioning models. Braz. J. Biol., 68(4, Suppl.): 1003-1012.


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