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2014-12-20 (Sat)
前回の記事では、群集の構造、とりわけ構成種の個体数構成について、実例をあげながらご紹介しましした。

今回は、実際にトンボ群集が調査された生息地(沼)のトンボ相についてのお話です。

札幌のH沼の1971年のトンボ群集調査(毎週1回)では、個体数最多のエゾイトトンボから最小のムツアカネまで、11種のトンボが記録されました。

では、H沼のトンボ相はどんな様子だったでしょうか?

1970年から1973年までの4シーズン、私がこの沼に通い詰めて、成虫の行動観察から幼虫調査までのあらゆるフィールドワークの間に、採集したトンボは全部で21種でした(Ubukata 1974*)。

この中には、一時的にこの沼に迷い込んだとしか考えられない流水性の種(オニヤンマ、ニホンカワトンボ)も含まれていますが、オゼイトトンボ、ルリイトトンボなど低密度で生息していながら群集調査の際には発見されなかった種も含まれています。

トンボ相調査によって記録された種類数は、トンボ群集調査のそれの、ほぼ2倍にもなっています。

結果の数値だけ見ると、トンボ群集調査よりもトンボ相調査のほうが能率がよいように思うかもしれません。

しかし、トンボ相調査に掛けた時間は、少なく見積もっても群集調査の10倍以上になるでしょう。
というのも、特に最初の2年間は雨の日を除いてはほぼ毎日のように沼に通い(あるいは沼の近くのテントに泊まり込み)、朝から夕方近くまでトンボの観察を続けたからです。

これだけ時間をかけていますので、この沼のトンボ相**をほぼ調べ尽くしたといっても過言ではないと思います。

逆に言えば、トンボ相をほぼ完全なものとして把握するためには、膨大な時間がかかるということが言えます。

それと同時に、どれだけ沢山の時間をかけて調べても、トンボ相を調べ切る(完全なリストを得る)ということにはなっていないことにも注意が必要です。

ここで、もう一度、H沼の群集構成を見てみましょう(下図の上段)。

トンボの群集構造の例

 ↑クリックで拡大します。

この片対数グラフで、右下がりの直線に回帰した種の優占順位(個体数順位)と個体数の関係を外挿すると、観察された最小個体数の種(第11位)に続いて、第12位、13位を始めとした、より個体数の少ない種が群集調査の網にかからないまま、この沼に出没していたことが示唆されます。
第14位となると、第11位(この調査では1個体)よりも更に1桁少ない密度で存在している計算になります。

群集調査以外の時間も眼を光らせて観察し続けて、H沼のトンボ相に付け加えられた10種は、同沼のトンボ群集の中で12位以下の低密度の種の面々であったということができます***。

さて、トンボ相とトンボ群集。この似て非なるデータ型式は、現在全国的に、あるいは世界的に進行しているトンボの生物多様性(種多様性、群集の多様性)の変化(その大部分は衰退もしくは変質)をキャッチする上でどう役立てられるでしょうか?

これについては、次回以降の記事で取扱いたいと思います。

注:
*Ubukata, Hidenori, 1974: Relative Abundance and Phenology of Adult Dragonflies at a Dystrophic Pond in Usubetsu, near Sapporo JOURNAL OF THE FACULTY OF SCIENCE HOKKAIDO UNIVERSITY Series ⅤⅠ.ZOOLOGY, 19(3): 758-776.

**トンボ相は、年々変動しますので、この文脈では、当時の4年間のトンボ相について言及しています。

***これは元村の等比級数則通りであった場合の話で、実際はサンプリングの際の偶然性も影響し、順位の入れ替わりも十分起こり得ますので、あくまでも傾向についての説明にすぎません。



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