07≪ 2017/08 ≫09
12345678910111213141516171819202122232425262728293031
2014-12-24 (Wed)
前回までの連続4回の記事で、トンボ群集とトンボ相の関係について、種数に着目して検討してきました。

その中で、
(1)トンボ群集の中において、優占種(群集の総個体数の最大比率を占めている種)を筆頭とする個体数順位が低下するにつれてその順位の種の個体数は等比数列的*に減少する例があること。
(2)調査回数・調査時間を増やすほど、記録される累積種数が増加すること。
をお示ししました。

今回は、(2)調査回数・調査時間の増加と累積種数の関係についてです。
 調査回数・調査時間は、調査努力と言い換えることもできるでしょう。

トンボ群集がほぼ均等に活動している生息地内で調査努力を2倍にすると、それによって観察される個体数もほぼ2倍になるという、比例関係が成立するでしょう。

この関係を利用すれば、横軸に調査で観察・記録された累世個体数を、縦軸にそれまでに記録された累積種数をとれば、調査努力と累積種数の関係が掴めるはずです。

この関係は、実は、70年前に大型鱗翅目群集で明らかにされています。
イギリスのRothamstedでライトトラップ(灯火で蛾類など走光性の動物ほ誘引・捕獲する装置)により採集された蛾類の種数・個体数関係を分析したものです(Fisher et al. 1943***)。

下がその図です(そのまま掲載できませんので、私がトレースしたグラフです)。

個体数と種数の関係(Fisher et al 1943)
 ↑クリックで拡大します。

このグラフからわかることは、
(1)累積種数は調査の最初に急速に増加すること。
(2)累積種数の増加速度はその後漸減し、増加率ゼロに近づいていくこと。
です。

このような関係は鱗翅目に限らず、多くの生物群集で知られています。
トンボも例外ではなく、私の手持ちのデータでも同様の結果が得られています。

ではなぜ、このようなグラフになるのでしょうか?

私たちがトンボシーズン最盛期に、多様性が豊かなトンボの生息地を訪れたとします。
次々と種ごとの個体数のカウントをはじめてみると、優占種(個体数の多い種)が繰り返し観察され、記録され、個体数の少ない種が最初からカウントされる確率は低いはずです。
1時間こうして観察個体数を記録すれば、すぐに5,6種類は記録できるでしょう。
翌日同じ場所を訪れて同じ範囲を観察した場合、前日の1回目に観察された種が大部分で、個体数は増えますが種数は1、2種類追加できればいいほうかもしれません。
同様に毎日1時間ずつカウントしていったとして、稀な種が数回から十数回に1度追加され、その追加の可能性は徐々に低下していくでしょう。

以上のように、トンボ群集調査も、トンボ相調査も、調査努力を累積するにしたがって種数は増加しますが、その増加率は逓減していくでしょう。

さて、トンボ群集調査とトンボ相調査、そのどちらがトンボの多様性の長期変動を捉えるのに適しているでしょうか?

徹底的に調査努力を注ぎ、種数の増加率が実質的にゼロになるまでの結果(「解像度」の高いトンボ相データ)を得ておき、その結果を保存しておいて、それらを長期変動や場所間の比較に利用する、というのは確かにもっとも望ましく、理想的なものです。

しかし、日本中に昆虫少年や昆虫愛好家が満ち溢れていて、生物多様性の長期変動のモニタリングに協力的であるのなら別ですが、それは望むべくおありません。

では、次善の策として何があるでしょう?
調査努力(調査回数、調査時間、調査区面積、調査区数生息地面積のうちの調査区のカバー率など)を一定にした調査によるデータを収集し、保存しておくことで長期比較が可能になろはずです。

この調査努力を一定にし、データの比較可能性を担保することができるのが、モニタリングにおけるプロトコールの設定です。

私は、今年の「昆虫と自然」(ニューサイエンス社)の9月号(特集:昆虫多様性モニター法)に、「トンボ多様性の変化を追う -トンボ成虫群集モニタリングのプロトコール-」というタイトルで、プロトコールのひとつを提案しています。

そのエッセンスについて、今後、このブログでもご紹介したいと思います。

注:
*あらためて元村論文**を読み直すと、等比数列とすべきところを等比級数の用語を充てていることがわかりました。元村の等比級数の法則は等比数列の法則と言い換えるのが適切です。

**元村 勲 1932: 群聚の統計的取扱に就いて。動物学雑誌、 44(528), 379-383.

***Fisher, R. A., Corbet, A. S., & Williams, C. B. (1943). The relation between the number of species and the number of individuals in a random sample of an animal population. Journal of Animal Ecology, 12, 42-58.


ブログランキング(↓):両方ともクリックで応援してください。



にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ
にほんブログ村

| トンボ:個体群・群集 | COM(0) | | TB(-) |
コメント







管理者にだけ表示を許可する