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2014-12-31 (Wed)
前回の記事で、同一生息地(または地域)において調査努力(調査回数・調査時間)を増した場合の、累積種数の増加の関係について、以下の傾向が観察されることをご紹介しました。

(1)累積種数は調査の最初に急速に増加すること。
(2)累積種数の増加速度はその後漸減し、増加率ゼロに近づいていくこと。
です。

この傾向をクリアーに表現しているグラフ(灯火採集された蛾類*)を下に再掲します。
前回記事に掲載のグラフには添えていなかった目盛り数値を今回は加えました。

個体数と種数の関係、目盛り付(Fisher et al 1943)
 ↑クリックで拡大します。

今回は、このグラフを題材にして、調査努力を替えた場合の昆虫群集、昆虫相のデータの得られ方について考察します。

ここで調査努力を問題にする理由は、私たちがある生息地(または地域)において特定の生物分類群(例:トンボ目)のファウナ(動物相:種のリスト)を調べつくすことは、ほとんどの場合には実際上不可能であり、従って、得られたファウナのデータは不完全なものにならざるを得ないからです。

調査結果としてのファウナデータの種数は、群集調査においては累積種数にほかなりません。

Rothamstedのこの調査から推測される大型蛾類相の構成種数は、このグラフで累積種数曲線が飽和曲線型を描き、その想定される漸近線(水平)の切片の座標から、ほぼ250種程度といえます。

250種の完全リスト化のためには、16000個体よりも遙かに多くの個体数の蛾類を灯火採集し、それらを全て種まで同定するという大変な努力が必要となります。

私たちが地域のトンボ相、トンボ群集を調査をボランティアベースで、身構えずに行う場合の調査努力には自ずと低めの限界があります。
どの程度の調査努力でどの程度の調査結果が得られるかについて、この大型蛾類のデータで見ていきたいと思います。
グラフの中の打点のどれが何に相当するのかについては、脚注3***をご覧ください。

平均の確認種数は、単年度の調査努力の「4分の1」では120種、「2分の1」では150種、「4分の3」で170種と順調に増加します(増加率は低下していきます)。
1年では180種、2年で220種、3年で230種、4年で240種となっていて、最初の年と同じ努力をしたのに、4年目ではたった10種しか増加しません。
4年目の累積種数を増加させる効率は、1年目の18分の1になっています。

さて、Rothamstedで大型蛾類相群集を調べたのは、脚注2の論文の共著者である C. B. Williamsですが、その採集品リスト(240種が明示されている)は1933~1936年における当地のほぼ完ぺきな(網羅率95%程度と考えられる)大型蛾類相データといえます。

Williamsは採集個体数データを添えた種のリストを公表しています**ので、80年後の現在(2010年代中葉)に同じ地域において同じ方法、同じ調査努力で群集調査を行えば、特定の種の増減を明らかにすることができます。
その意味で、群集サンプルの種別個体数を調査方法、調査努力の内容とともに後世に残しておくことは、生物多様性の変動を知る上で大変貴重です。

ここで、もし、Williamsが個体数データや調査方法、調査努力の内容を残さず、種のリスト(在・不在データ)のみを残していたとしたらどうでしょう?
4年間に2349個体採集されたAgrotis exclamationis(和名:センモンヤガ:標本画像、外部リンク )も、1個体しか採集されなかった35種の蛾も横一列の扱いとなってしまいます。
そうなると、80年後の現時点での調査でセンモンヤガが1個体も採集されなかった場合でも、当時1個体だった種類が現時点で採集されなかった場合と同じ扱いとなってしまいます。

また、80年間でほとんど群集の生息状況が変わらなかった場合であっても、調査方法、調査努力が異なれば、リストアップされない種が頻発することが十分考えられます。
このような場合、種のリストだけを比較して、「種○○はこの地域で絶滅した」と言い切ることができるでしょうか?
もちろん、それはできないでしょう。

ということで、蛾類でもトンボ類でも、ファウナ(動物相)を把握することは動物群集の一側面を見ようとしていることである、ということを十分意識することが大切でしょう。
そして、将来における同地域、または現時点ないし将来の他地域との比較に耐えるデータを得るためには、調査の仕方を、最大限、動物群集調査に近づけることが、動物相の調査者には求められるのではないでしょうか。

6回連続の記事を通して、ほぼ同じ内容のことを繰り返して述べて来ましたが、今回、蛾類の具体的なデータをなぞることで、少しはイメージが捉えやすくなっていたとしたら、肩の力を抜くことができます。

次回は、トンボ群集調査のプロトコールを取り扱うことにしています。


注:
*注1 Fisher, R. A., Corbet, A. S., & Williams, C. B. (1943). The relation between the number of species and the number of individuals in a random sample of an animal population. Journal of Animal Ecology, 12, 42-58.

**注2 Williams, C. B. (1939). An analvsis of four years captures of insects in a light trap. Part I. General survey; sex proportion; phenology; and time of flight. Trans. R. Ent. Soc. Lond. 89: 79-131.

***注3 [以下の文章全体]:
このグラフに打たれたデータの点のうち、2000個体弱から4000個体弱までの3つの点と7000個体弱の点1つは、4つの単年度データにおける種類数です。
1000個体未満の4つの点は、各単年度の個体を8等分したときの平均種類数です。
5000個体強から10000個体強までの6つの点は、それぞれごとに、2つの異なる年度のデータを合計した場合の種類数です。
9000個体弱から14000個体弱までの4つの点は、それぞれごとに、3つの異なる年度のデータを合計した場合の種類数です。
15000個体強の1つの点は、4つの全ての年度のデータを合計した場合の種類数です。
4つの年度を平均した年間採集個体数は3900個体強*だったので、グラフから推定すると単年度で平均180種が発見される計算になります。
2年間では平均7800個体強で220種弱が、3年間では平均11700個体強で230種弱が、4年間では平均15600個体強で、240種弱が発見されると期待されます。
ここで、各年度の採集努力が低く、実際の「4分の1」、「2分の1」、「4分の3」だった場合を想定すると、採集個体数および推定種類数はそれぞれ、975個体で120種強、1950個体で150種弱、,2925個体170種強となります。


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