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2015-01-09 (Fri)
私のお気に入りのトンボの一つ、リュウキュウルリモントンボCoeliccia ryukyuensis*の♂です。

リュウキュウルリモントンボ ♂
  ↑クリックで拡大します。

2010年5月、前回記事と同じ、沖縄本島北部の山地(やんばる)への短期調査旅行の際に、西海岸に注ぐ小さな川の上流部の、岩の多い谷斜面の浅い水たまりの近くで撮影したものです。

この時は、交尾・産卵も観察することができ、夢中でシャッターを押しました。

樹陰のサンスポットの中で、リュウキュウルリモントンボ♂の複眼は、サファイアのような輝きを放っていました。

腹部は漆黒の背面と腹端部(腹部第9、10節)のオレンジ色が鮮やかなコントラストを作り出しています。
また、♂の胸部(翅胸**)前面は黒の地色の中に、青い楕円形のスポット斑紋が対をなしていて、愛らし感じがします。

♀の色は、ふつう胸部側面が♂のように鮮やかな青色ではなく、黄色味が強く、腹部の色彩のコントラストも不鮮明で、他の多くのトンボの種同様、♂の引き立て役に徹しています。

ただし、♂と同様の色彩をした♀の型も存在していることが知られています(♀の二型)。

すでに交尾を済ませていて体内(交尾嚢、受精嚢)に十分な精子を保有している♀にとって、自分の体の色を♂と同じ色彩をすることによって***、それを見た♂が性識別を誤り、その結果♂による交尾の試みが減少することが期待できます。
これにより、産卵や摂食のための貴重な時間を削がれることが軽減されるでしょう。

その一方で、鳥や大型トンボなどの捕食者に目立ちやすくなることから死亡率が高くなることも十分考えられます。
それ以外にも、他の♂から♂として扱われ、恋敵として、♀がやってきそうな場所(産卵場所)から追い払われるおそれもあります。

このハムレット的な状況「男装すべきか、せずべきか、それが問題だ」から抜け出す鍵となり、個体群の中での♀型♀と♂型♀の個体数の比率を決めているのは、その生息地の環境だと思われます。

捕食者が多い場所、捕食者に目立ちやすい場所では♀型♀が多く、そうでない場所では♂型♀が多いというのが、もっともらしい仮説といえます。
実際はどうなのでしょう?
♀の二型が見られる個体群で、捕食者密度やこのトンボの産卵場所、摂食場所の覆いを実験的に操作して、♂型♀、♀型♀それぞれの産卵時間、被食頻度などのデータを採って比較・解析すればわかるかもしれません。

東南アジア、東アジアの熱帯林、亜熱帯林を中心に分布するルリモントンボ属の中にはレッドリストに掲載されている種も少なくなく、森林伐採や渓流の破壊で絶滅していくおそれがあります。
生物多様性、生息地保全の取り組みをサポートしていかなければ、このような自然史の謎を解いていくことも叶わなくなりかねません。

     *         *

本種が属する、モノサシトンボ科は、鉄アレイのような形をした頭部が左右にさらに伸びて、複眼間の距離が長いのが一つの特徴です。本科に属する、モノサシトンボ(後日、記事にします)では、腹部の節の後端近くに淡色の斑紋があるところが、物差しに似ていることから、この和名が付けられました。

モノサシトンボ科は、系統分類的にはイトトンボ科ともっとも近縁で、均翅亜目の中では進化史の中で比較的新しい系統に属します
(以前の記事「トンボ目の系統樹」を参照)。

注:
*リュウキュウルリモントンボは日本固有種で、沖縄本島とその付属島、そして奄美諸島に分布します。奄美諸島のものは別亜種として記載されています。
従来、別亜種には別の和名が付けられていましたが、最新のトンボ図鑑『日本のトンボ』(尾園、川島、二橋:文一総合出版)では亜種和名を採用していません。
そうすることで、一つの和名は一つの種を表すことが徹底されますので、私もそれに準拠することにしています。
属名Coelicciaの語源についてですが、ラテン語のcoelicus (caelicus) には「天上の」「神の」という意味がありますので、この属のトンボ成虫がもつ神々しい輝きに魅せられたWilliam Forsell Kirbyがこの学名をつけたのかもしれません。
種小名、ryukyuensisは「琉球の」という意味です。ラテン語の接尾語 ensis は地域名につけると「~の」、「~からの」という形容詞になります(中性名詞を形容する場合は-ense)。

**トンボの胸部は(昆虫の基本通り)前胸、中胸、後胸の3節から成っていますが、前脚のついている前胸は極端に縮小しています。それぞれ一対の翅と脚がついている中胸、後胸は合体して大きな「翅胸」を形成しています。

***この文章では、♀個体が自分の意思で、ある目的を持って、自分の体色を変更するような書き方をしていますが、実際は突然変異でそのような体色の変異が生じ、その変異した遺伝子を持っている個体が次世代を多く残すことにより、(広い意味の)自然淘汰を受け、その形質が個体群の中で広がっていくプロセスのことを(目的を予測し、意図的に行動を選択する、種ヒト)の個体に模して表現したものです。


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