03≪ 2017/04 ≫05
123456789101112131415161718192021222324252627282930
2016-04-07 (Thu)
オツネントンボSympecma paediscaは、トンボの中でも珍しい成虫越冬をする種です。

昨日の埼玉県西部丘陵地・低山地へのプチ遠征で、私を最初に出迎えてくれたのは、このオツネントンボです。

長い冬を風雪のシェルターとなる物陰に隠れて過ごし、春の陽気を感じるとおもむろにそこから這い出し、懐かしの水辺を求めて飛び立つのでしょう。
体の色が淡褐色をしているのは、それらシェルターになる枯葉や枯草の色に似ていることで(隠蔽色)、鳥獣による捕食を免れる効果をもつに違いありません。

今回は溜池の枯れヨシにとまる1匹の♂を写真にとることができました(写真)。
クリックすると拡大します。

Sympecma_paedisca_160406A
オツネントンボSympecma paedisca

Sympecma_paedisca_160406B
オツネントンボSympecma paedisca

複眼背面をよく見ると左右それぞれに鮮やかな水色のスポットが一つずつあります。
これは越冬前や越冬中にはなく、水辺での婚活が主要任務となる春先の雄が装う婚姻色です。
ある方のフェイスブックでの本種♂の写真に反応して、私が書き込んだコメントは、
「サファイアのエンゲージリングですね」
でした。

と盛り上がったところですが、つぎは少し野暮な話になります。
写真をパソコンで拡大してはじめて気づいたのですが、とまっていたヨシの枯れ茎にはクモの網がかかっていてるではありませんか。
下手をすると羽化してから約9カ月間つないできた命を一瞬のうちに落とすことになったかもしれません。
でも、オツネントンボはそれほど間抜けではないのかもしれません。
だからこそ、現在までも生き残っていると。。。

オツネントンボに関しては、このブログでも以下のようり何度か記事を書きました。
よろしければご笑覧ください。

オツネントンボ:錦秋の山頂駅でお出迎え

オツネントンボ♀:冬の貴婦人

トンボの寿命は何年くらい?

オツネントンボ♀(2):貴婦人の身づくろい

オツネントンボ(3):成虫越冬も悪くない?

昆虫の越冬:自然淘汰が操る物理化学


ブログランキング(↓):よろしければ両方ともクリックして応援してください。



にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ
にほんブログ村

| トンボ:形態と機能 | COM(0) | | TB(-) |
2015-09-09 (Wed)
トンボの胸と腹の役割は?

節足動物の進化を考えた場合、その初期には(ムカデやヤスデがそうであるように)沢山あった体の節には胸と腹の区別はありませんでした。

昆虫が地球上で大繁栄したのは、胸に移動のための器官である脚を集め、さらには背面に大きな翅を生やし、その一方で残りの多くの体の節を「内臓を覆う容れ物」すなわち腹部に特化させたことで、環境適応力の潜在力を高め、それらの特性を変化させながらさまざまな微環境に進出できたからです。

実際、トンボの胸の中には翅を動かす大きな筋肉の束がぎっしりと詰まり、脚の基部を動かす筋肉もしっかりと入り込んでいます。胸を覆う鎧のような外皮は羽ばたきや脚の運動によって生じる力を受け止められるだけの厚みと形をもっています。

腹部は内臓(消化器、内部生殖器、排出器など)の主要部分を包み込んでいる場所で、とりわけ雌の卵巣(正確には卵巣小管の束)がそのほぼ全長にわたって伸びていて、成熟した雌は「数の子」を連想するほどの数の成熟卵を腹いっぱいに貯えています。雄には精巣がありますが、これはサイズ的にはそれほど大きくありません。

トンボの場合、それに加えて、腹部を、成虫雌が卵を産み付けるときの「腕」として自在に動かします。

成虫雄も、雌と交尾するときに腹の先のピンセット(尾部付属器)で雌の頭部または胸部前方を挟む際、また、さらに挟んでから雌に交尾(ハート型の連結)を促す際に、腹部全体を自分の意図通りに動かします。

このほかにも、個体間の威嚇や求愛誇示のため相手に目立つ色のスポットを見せ付けたり、翅の表面についたゴミなどを取り除いたりするために、腹部を器用に曲げて動かします。


ブログランキング(↓):両方ともクリックで応援してください。



にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ
にほんブログ村

| トンボ:形態と機能 | COM(0) | | TB(-) |
2015-02-27 (Fri)
トンボに意外なほど多くの光センサー遺伝子が存在し、複眼の部位、幼虫と成虫とで使い分けていることが、産業技術総合研究所、東京農業大学、総合研究大学院大学にまたがる研究グループにより明らかにされました。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2015/pr20150224/pr20150224.html

その成果はアメリカの有力ジャーナルPNASの最新号に報告されています。

http://www.pnas.org/content/early/2015/02/18/1424670112.abstract

ヒトを含む多くの動物では色覚に関わる3~5種類のオプシン遺伝子(光センサー遺伝子)を備えていることが知られていましたが、今回の研究で、トンボは15~33種類と大変多いオプシン遺伝子を持つことが判明しました。

アキアカネの複眼の背側では主に紫外線(300 nm)から青緑色(500 nm)の短波長の光によく反応し、一方、腹側では紫外線から赤色(620 nm)までの波長の光に反応することが分かりました。

更に、個々のオプシン遺伝子は、幼虫と成虫のどちらか一方だけで使われているだけでなく、成虫で使われているオプシン遺伝子は、複眼背側、複眼腹側、単眼周辺のどこか一カ所の領域だけで機能していることも判明しています。

 トンボの幼虫は水中であまり動かずに生活するのに対して、成虫は陸上を活発に飛びまわる。したがって幼虫は成虫に比べると視覚や色覚への依存性が低いと予想される。また成虫では、複眼の背側では主に空を背景に物体を認識し、複眼の腹側では主に地表の環境、繁殖相手や餌などを認識する。

以上、産総研の上記サイトからの抜粋でした。

私が昨年11月の日本トンボ学会全国大会で衝撃をうけた二橋亮さんの研究発表とは、この内容でした。まだ論文公表前のようでしたので具体的内容についてのブログでの紹介は避けていたものです。

トンボは触角は退化傾向を示していて聴覚ももちろんないことから、視覚動物であると昔から言われていました。また、♂と♀で異なる色彩をしてセックスアピールしていたり、種ごとに微妙に色彩や斑紋パターンが異なっていることから、色覚があることはだれしもが思っていました。
しかし、基本的に黄色か赤の色しかまとっていないアカトンボがこんなに多くの色を識別していたというのは私にとって驚きでした。

成虫複眼の背側と腹側で見える波長(色彩)が異なるというのも、眼から鱗です。産総研のサイトにも書いてあるように、トンボは背を上に向けて水平に飛びますから大空からの紫外線や青っぽい光を複眼背方から多く受け、複眼腹方(下側)には地面や水面、植生などからの反射光が飛び込んできますので、視覚遺伝子の働き方は要領を得ています。

この論文の第一著者である二橋さんは幼少の頃からトンボを追い続け、その豊富な自然観察体験や持前の洞察力でこの研究をリードしています。
今後も応援していきたい人の一人です。


ブログランキング(↓):両方ともクリックで応援してください。



にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ
にほんブログ村


| トンボ:形態と機能 | COM(0) | | TB(-) |
2015-01-26 (Mon)
ハナダカトンボ科の1種Heliocypha perforataの「卵胎生」については、5回連続の記事で語りつくしましたが、Dayananda氏が撮影しネット上で公開している下記ビデオを見ている内に、トンボが示した、ある動作に新鮮な驚きを感ましたので、書いておきたいと思います。

卵胎生的豆娘?三斑犀蟌Heliocypha perforata,蜻蜓目的第一例
http://www.guokr.com/post/657428/focus/0124320743/

それは何かといいますと、一連の産卵行動の中で、適切な産み付け場所を「触診」のように探る際の、雌の腹端の動きです。

私は、今まで、イトトンボ類♀の腹の先端に左右1対で突き出ている突起(尾毛)にどのような機能があるのか考える機会がありませんでした。

しかし、この動画を見ると、この尾毛がピクピクと動き、産卵基質(朽木)の表面を検知器のように触診しているではありませんか。

これに加えて、産卵弁側片*(産卵管としての機能上の本体である産卵弁腹片*と産卵弁内片*を収納する鞘の機能をもつ)の先端の尖突起も同様の触診をしています(これについては、このブログの以前の記事**にも書きましたが、概念的な知識にすぎませんでした)。

更に、腹部末端の2節(第9節、第10節)を巧みに動かして、産卵基質上を軽くたたいたりなぞったりする動きをつくりだし、触診場所を流れるように選定しています。
まるで葉の上にたかっている芋虫が、頭部を少しもたげては葉の表面に顔を近づけて触角・小顎髭・下唇髭などを接触させ、表面の硬さや肌理を探っているかのようです。

また、このトンボの腹端の2つの節の体表の殻(クチクラ)は、これまで私が思っていたよりも、しなやかで、その点でも芋虫を連想させました。

ハナダカトンボ科のこの♀の腹端は、現代科学を応用した超先端の触診器具並のスマートな動作性能を持っているといえないでしょうか?

ハナダカトンボ科の別の種ではトンボの♀が生涯に産む卵の数は約600***と推定されています。
トンボ目の中で決して大きい数ではありません。

雌が不適切な場所に卵を産みつけるなら、貴重な子孫を1回につき400分の1ずつ失っていくことになります。
したがって、産卵基質のうちの適切な部位(硬すぎない、柔らかすぎない、乾きすぎない、薄すぎない、しっかりしている[流出したりしない]、など)を、触感で見極めることは母親にとって大切な仕事になります。

Heliocypha perforataの、そしておそらく均翅亜目全体の、産卵基質触診行動とそれを支える外部形態、筋肉・神経系、脳内コマンド体系は、大量の不適格産卵の淘汰の中で、より高性能な触診行動が生き残ることで進化したに違いありません。

注:

*均翅亜目の♀の腹端にある産卵器の構造を再掲しておきます。(詳細についてはは以前の この記事を参照してください)

均翅亜目の産卵管(Tillyard 1917)
 drawn by R. J. Tillyard, R. J. (1917)

図のキャプションの訳【補訳】:Synlestes weyersi Selys ♀【ミナミアオイトトンボ科】の産卵器【広義の産卵管】。ap:前方突起【産卵弁腹片】;mp: 中央突起【産卵弁内片】; st: 尖突起;v: 産卵弁【産卵弁側片】。原図。キチン質のプレパラート。

** 当ブログの過去記事「トンボの産卵器の構造:植物組織内産卵用

***Orr, A.G. (2009): Reproductive behaviour of Libellago semiopaca on a Bornean rainforest stream (Odonata: Chlorocyphidae). International Journal of Odonatology, 12: 157-180.


ブログランキング(↓):両方ともクリックで応援してください。



にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ
にほんブログ村


| トンボ:形態と機能 | COM(0) | | TB(-) |
2014-10-11 (Sat)
前回の記事「アジアイトトンボの産卵(2)」で、トンボの産卵動作に関連して、「腹部各節の神経球」について言及しました。

文章だけでは、イメージがあまり湧かないと思いますので、今回もTillyardの名著*から図を引用して追加説明したいと思います。

Dragonfly nervous system by Tillyard 1917
トンボの神経系 (Dragonfly nervous system drawn by Tillyard, 1917)*

上左の図は、トンボの神経系の全体図です。
上がトンボの体の前方、すなわち頭部、下が腹の先(尾)となる図の配置です。
図の右のスケールと数字は腹節とその区切りを示しています。

図左の上端中央のbrは脳です。
脳から左右にキノコのように膨れ出ているのが視神経葉です。
視神経葉は、トンボの大きな複眼の神経情報を処理するだけあって大きいですね。
Sogは食道下神経球です。ここから環食道連合と呼ばれる神経の束が食道(咽喉)の両側を迂回して食道上の脳につながっています。

昆虫をはじめ、節足動物(甲殻類やクモ類も含む)の中枢神経は人間など脊椎動物とは逆に、消化管の(背中側でなく)腹側を通っています。

以下、胸部の三つの体節ごとの神経球(tg1~tg3)、腹部の各体節の神経球(ag1~ag8)が体の長軸に沿った神経索によって連結しています。
胸部は脚と翅の運動を担っている場所ですので、その神経球も大き目です。

第1腹節には神経球がなく、その神経球は不思議なことに胸部のほうに取り込まれています。
トンボの第一腹節は他の腹節にくらべて短く、とくにこれといった器官もありませんので、飛翔や歩行に忙しい胸部の筋肉のために助っ人にされたのかもしれません。

前回や前々回の記事で取り上げた、産卵器の複雑な動作を担う腹部第8節の神経球(第9,10節の神経球も併合)も、少し大き目です。
上右の図は、その部分を拡大したものです。
n7,n8は腹部第7節、8節の筋肉等への神経線維です。rnは生殖器官につながる神経線維です。

この図から、神経球と神経球をつなぐ神経索は2本(複線)になっていることがわかります。

節足動物が属する無脊椎動物の一大系統(前口動物)の中で、より下等なプラナリア(参考画像:外部サイト)などでは、はっきりと左右に分かれて縦走する神経系がみられます。
このように、昆虫に至る系統の神経系は複線が基本です。

しかし、ハエ(参考画像:外部サイト)などでは左右の神経が癒着し、さらには神経球の位置が体節から独立しています。

太古の、体の前・中・後がほぼ同じような形をしていた動物から、ハエのように体の各部の分化・特殊化が進み、敏感かつ俊敏な動きをする動物へと進化する中で、神経系もそれに歩調を合わせるように形態や機能をより高度なものへと変えてきたというわけです。

トンボは、昆虫の中では体節間の機能分化がまだそれほど進んでおらず、そのため、神経系も比較的わかりやすいといえます。

注:
*Tillyard, R. J. (1917) The biology of dragonflies (Odonata or Paraneuroptera). Cambridge University Press. (N.B.: Copy right has been expirated.)


ブログランキング(↓):両方ともクリックで応援してください。



にほんブログ村 科学ブログ 生物学・生物科学へ
にほんブログ村

| トンボ:形態と機能 | COM(0) | | TB(-) |