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2017-08-28 (Mon)
3回シリーズで続いている、今年の7月上旬、関東地方から北~北東方面に脱出した先にある、自然度の高い浅い沼一帯のトンボ観察記もいよいよ大詰め、今回は私の憧れのトンボとの対面が実現した際のエピソードを中心に紹介します。

憧れのトンボ、それはアマゴイルリトンボ Platycnemis echigoana Asahina, 1955 です(写真1)。

アマゴイルリトンボ♂(3) 
写真1 アマゴイルリトンボ Platycnemis echigoana(12時34分撮影) (写真はクリックで拡大します)

午前11時30分、早目の昼食休憩を済ませた私は、昼食前に観察した岸の対岸側の、日当たりのよい岸沿いにトンボの観察を再開しました。

最初に見つけたトンボはモノサシトンボ Pseudocopera annulata (Selys, 1863) ♂で、沼の水面から出たスゲ類の葉にとまっていました。

少し移動すると、今度は沼の水面から茎を突き出しているミツガシワの葉にもモノサシトンボ♂がとまっていました(写真2)。

モノサシトンボ♂、水辺にて 
写真2 モノサシトンボ Pseudocopera annulata 

いずれの♂も、明らかに、♀の到着を待ち受けている、すなわち婚活モードに入っている様子です。

翅および体表に汚れがないことから、まだ婚活シーズンが始まったばかりだということが伺えます。

11時36分、漏れ日があたる、ミツガシワ帯の草本の葉にとまるモノサシトンボ♀を発見しました(写真3)。

モノサシトンボ♀ 
写真3 モノサシトンボ Pseudocopera annulata 

♂とくらべて、特に体前半分の淡色部が♂のように青味がかった白ではなく、黄褐色がっかった白い色をしています(本種では、青味がかった白の♀も知られていますが)。

午前中にも羽化直後の個体を含め4頭のモノサシトンボを見つけて撮影しましたが、♂ばかりで、♀はここでは初物となりました。

次に、岸の丈の高い草の葉にとまるエゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum (Selys, 1872)の♂(スペード形黒紋の個体)を撮り、少し歩を進めると、水面に浮かぶオゼコウホネ Nuphar pumilum var. ozeense の葉やヒルムシロ Potamogeton distinctus の葉にそれぞれとまるクロイトトンボ Paracercion calamorum (Ris, 1916) ♂を見つけました(写真4)。

クロイトトンボ♂ 
写真4 ヒルムシロ Potamogeton distinctus の葉にとまるクロイトトンボ Paracercion calamorum 

もちろん、いずれも、その葉の周囲を なわばり にし、♀の到着を待っているバリバリの♂です。

クロイトトンボは、この生息地では私の前に初登場です。

今度はエゾイトトンボ連結カップルミツガシワ Menyanthes trifoliata の茎にとまっています(11時41分)。

少し離れたミツガシワの葉の上にはエゾイトトンボの独身がとまっています(写真5)。

エゾイトトンボ♂ 
写真5 エゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum 

こちらも、♀の登場を待ち受けているモードです。

別のミツガシワの葉にはモノサシトンボ♂もとまっています。

これはもう、婚活パーティ―状態です(笑)。

11時46分、エゾイトトンボの連結産卵が見られました(写真6)。

エゾイトトンボ、連結産卵 
写真6 エゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum 連結産卵

オゼコウホネかなにかの浮揚植物の葉柄の組織内に、♀がいそいそと卵を産み付け、♂は直立して♀をガードしています(歩哨姿勢)。

11時51分、ミツガシワの茎にとまっているエゾイトトンボ連結カップルに、別のエゾイトトンボ♂が近づいたため、連結♂は翅をばたつかせて威嚇しています(写真7)。

エゾイトトンボ連結 
写真7 エゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum 連結カップルに他♂が接近

下の写真8は同じエゾイトトンボ連結カップルですが、♀の全身がよく見えているのでここに掲げることにしました。

エゾイトトンボ連結(2) 
写真8 エゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum連結、同一カップル

11時54分、ヒルムシロの葉の上にとまっているクロイトトンボ連結カップルを見つけ、撮影しました(写真9)。

クロイトトンボ連結 
写真9 クロイトトンボ Paracercion calamorum 連結カップル

写真9も、♀の全身が比較的明瞭に写っているので掲げています。

この後、モノサシトンボ♂3例、エゾイトトンボ♂1例を撮影しましたが、上に紹介した事例と同様の姿勢をとっていましたので詳細は省略します。

そんな中、ミツガシワの葉の縁にとまるトンボの羽化殻を見つけ、撮影しました(写真10

イトトンボ科羽化殻 
写真10 イトトンボ科の1種 Coenagrionidae, sp. の羽化殻

帰宅後、幼虫図鑑等で調べ、尾鰓の概形、体長に対する腹長の比率、尾鰓の途中に折れ目があるらしいことで、均翅亜目の他の科ではなくイトトンボ科に属する種の羽化殻であると判定しました。

12時05分、岸の木漏れ日の当たる、丈の高い草の幅広い葉の先端に、青味の強いモノサシトンボ科のトンボがとまっているのを見つけました(写真11)。

アマゴイルリトンボ♂ 
写真11 アマゴイルリトンボ Platycnemis echigoana 

アマゴイルリトンボ♂です。

カメラのファインダー越しに凝視しながら、「やったー!」と心の中で叫び声を上げていました。

今回の奥の蜻蛉道の旅の一番の目的を果たすことができた瞬間です。

ただし、初対面でしたので、帰宅後、パソコン画面で拡大画像と図鑑を見比べてアマゴイルリトンボに間違いないと確信するまでは、ぬか喜びの可能性もありえたのですが。

その後、この一帯で、柳の下のドジョウならぬ、2頭目のアマゴイルリトンボが見つからないか、眼を皿にして歩を進めたのですが、モノサシトンボ♂はいても、アマゴイルリイトトンボの姿はありませんでした。

ふと目を沼の水面にやると、宿願を果たした私を祝福するかのように、スイレン Nymphaea sp. の花が踊っていました(写真12)。[記事掲載時に「ヒツジグサ」としてい他のを訂正。2017.9.8.]

ヒツジグサ 
写真12 トンボの生息地に咲くスイレン Nymphaea sp. 

というわけで、目先を変えて、ハッチョウトンボのいるミズゴケ湿原へ向かうことにしました。

※その前に:昼時の日の当たる側の岸辺のトンボ成虫の構成には、午前中の日陰側の岸辺のそれと比べてクロイトトンボとルリモントンボの存在、オゼイトトンボの不在が指摘でき、♀を待ち受ける♂や連結や産卵中のカップルが見られるなど、生殖行動の活発化が見てとれます。

さて、この後の午後ののミズゴケ湿原で見たハッチョウトンボとアキアカネのオベリスク大会は、前々回の記事「奥の蜻蛉道(2):真夏のミズゴケ湿原のトンボ」に書いたとおりです。

そのミズゴケ湿原に向う通り道の横に、この沼の上流端の湿性草原の水たまりがありますので、そこに寄り道をしてみました。

すると、ますは藪の近くの草にとまるアキアカネが目に入りました(前回記事で既報)。

振り返るとその水たまりの近くの草の葉に、なんとアマゴイルリトンボ♂がとまっているではありませんか(写真13)。

アマゴイルリトンボ♂ 
写真13 アマゴイルリトンボ Platycnemis echigoana ♂ (撮影者の影響を受ける前の証拠写真)

これこそが、前回記事「奥の蜻蛉道(3):湿原上流端の脇役トンボたち」で登場を先延ばしされた「この日の昼食休憩後に初対面したばかりのトンボ」そのものです。

お待たせしました。

この日2度目のアマゴイルリトンボ♂ですので、写真写りを優先して、撮影会のカメラマン並みに様ざまな角度・距離からシャッターを押します。

アマゴイルリトンボは、このうざったいカメラマンを避けるかのように、何度かとまり替えました。

そのうちの1枚はこれ(写真14)です。

アマゴイルリトンボ♂(2) 
写真14 アマゴイルリトンボ Platycnemis echigoana 

そして最後の1枚(正確には最後から2枚目)がこれ(写真15)です(12時34分)。

アマゴイルリトンボ♂(3) 
写真15 アマゴイルリトンボ Platycnemis echigoana  (写真1の再掲)

というわけで、今回の記事の冒頭にはこの写真を使いました。

アマゴイルリトンボは見た感じはモノサシトンボと似ていますが、分類学上の属はグンバイトンボと同じグンバイトンボ属 Platycnemis に属しています。

グンバイトンボ属およびその近縁属の種には♂の中・後脚の脛節が軍配状に拡張しているものが多く知られており(過去記事「世界のグンバイトンボ類、軍配サイズ番付」参照)、その中でアマゴイルリトンボはもっとも軍配に縁がない部類に属しますので、私にとっても興味津々の種です。

この話題については、また後程の記事で取り上げたいと思っています。

この後、トンボ探訪を続けながら、この沼への流入河川(細流)(前回記事参照)とミズゴケ湿原(前々回記事)を通り、森林斜面の迫る岸(3回前の記事)を通って、愛車の待つ場所へと戻りました。

これをもって、当ブログの「奥の蜻蛉道篇」はいったん完結といたします。


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2017-08-27 (Sun)
前回前々回記事に続き、今年の7月上旬、関東地方から北~北東方面に脱出した先にある、自然度の高い浅い沼一帯のトンボ観察からのエピソードをご紹介します。

この沼の上流側には小規模なミズゴケ湿原が成立していて、独特のトンボ相が成立しています(前回記事)。

そのミズゴケ湿原を通り過ぎた先にある、沼の上流端部に向うところから、今回の記事がスタートします。

ミズゴケ湿原を通り過ぎるとすぐに小規模な河畔林になっており、その林内の木漏れ日のあたるスゲ類の葉にオゼイトトンボ Coenagrion terue (Asahina, 1949) ♂がとまっているのを見つけ、撮影しました。

更に少し進むと、沼の上流端(湿原になっている)に流入する小河川(細流)を横切ることになります。
その細流沿いに生い茂ったヨシの葉に、ニホンカワトンボ Mnais costalis Selys, 1869 無色透明翅型♂が木漏れ日を浴びながらとまっていました(写真1)。

ニホンカワトンボ♂、無色透明型 
写真1 ニホンカワトンボ Mnais costalis ♂、無色透明翅型 (写真はクリックで拡大します)

日本産のカワトンボ属 Mnais は2種、ニホンカワトンボアサヒナカワトンボ M. pruinosa Selys 1853に分類されていますが、形態が酷似していて、多くの場合、成虫標本の観察、ましてや生態写真だけからの種の同定には困難が伴います。DNAを抽出して解析すれば正確に同定できますが、研究機関の協力なしには行えません(過去記事「カワトンボ属:形態による種の同定は、核DNA塩基配列分析にひざまずく(以前の記事の訂正あり)」参照)。

それなのに、なぜ今回はニホンカワトンボと断定できたのかといえば、その理由は簡単で、今回の調査地域にはアサヒナカワトンボは分布していないことになっているからです。

さて、今回の観察記録に戻ります。

この細流を渡ったところの少し先に行くと見ることができる湿原の最上流端は、本来湿原だったと思われますが、私が訪れた時にはやや乾燥感のある草原の様相を呈していました。

それでも、写真2のように、大きな浅い水たまりがあることから、それなりに地下水位も高いのかもしれません。

湿原の上流端の景観 
写真2 沼の最上流端の湿性草原の水たまり

その浅い水たまりのほとりの幼木の尖端の立った枝の先近くに、シオヤトンボ Orthetrum japonicum (Uhler, 1858) ♂がとまっていました(写真3)。

シオヤトンボ♂ 
写真3 シオヤトンボ Orthetrum japonicum 

シオヤトンボについては、過去記事「シオヤトンボ:男たちの厚化粧」に♂の白粉による装いとその意味について、交尾中の写真も添えて記述していますので、ご一読ください。

この水たまりと向かい合う林縁に接した草むらの頭花にアキアカネ Sympetrum frequens (Selys, 1883) ♂が水平にとまっていました。

見ていると、その♂も前回記事のアキアカネ1♂のように、軽いオベリスク姿勢をとりました(写真4)。

アキアカネ♂
写真4 アキアカネ Sympetrum frequens ♂

少し視線を巡らせると、別のアキアカネ♂が、傾いたスゲ類の尖端の穂に、ほぼ水平にとまっているました(写真5)。

アキアカネ未熟♂ 
写真5 アキアカネ S. frequens 未熟♂

更にもう1頭のアキアカネ♂が、半日陰の草の葉の上にこちら向きにとまっていました(写真6)。

アキアカネ♂ 
写真6 アキアカネ S. frequens ♂

このように、正面からの写真からでは、雌雄の判定は難しいのですが、腹部第4節の前方付近が、それより後方よりも細まっていること、尾部上付属器は♀の相同の体部である尾毛よりもずっと長いことに着目してなんとか判定してみました。

午前10時10時26分。ほかにトンボの姿はないので、直前まで観察していたミズゴケ湿原に戻ることにしました。

そのミズゴケ湿原でのトンボ観察は前回記事に書いたとおりです。

昼食後の12時29分に、この浅い水たまりのある沼(湿原)の最上流端の草原を再訪してみました。

この時最初に出会ったトンボは、半日陰の笹の葉にとまるアキアカネでした(写真には正面向きで腹部が写っていないため、性別判定不能)。

シオヤトンボを撮影した水たまりに着くと、そこには私がこの日の昼食休憩後に初対面したばかりのトンボが1頭とまっていました。
その初対面のトンボについては、次回記事で詳しく報告する予定です。

そのトンボをさまざまな角度から撮影したあと、ミズゴケ湿原に向いました。

その途中の、湿原に流入する小河川(細流)沿いに生えた背の高い笹の葉に、今度はニホンカワトンボの♀が木漏れ日を浴びながらとまっていました(写真7)。

ニホンカワトンボ♀ 
写真7 ニホンカワトンボ Mnais costalis ♀

後半身を水平よりも40度ほど挙上して、いつでも飛び立てるような態勢で、斜め下前方を凝視しています。
小さな虫通りかかれば飛びかかって、捕獲する態勢です。

今回、ニホンカワトンボの♂と♀を観察・撮影することができました。

ただし、同時に見つかってもおかしくないはずのニホンカワトンボの橙色翅型♂(画像はこちら過去記事より])は今回見られませんでした。

その理由として、この細流が非常に小規模で、その上、橙色翅型♂がなわばり占有場所として好む少し開放的な(つまり上空の大半を樹枝で覆われることのない)水流の部分が無かったことが考えられます。

それにしても、カワトンボ類が移動可能な流域で考えれば橙色翅型♂はいるはずですから、今回はたまたま目にとまらなかっただけというのが真相に近いだろうと思います。

ニホンカワトンボの形態について具体的に取り上げたものとして、以下の過去記事があります。

※ただし、この過去記事で扱われているニホンカワトンボは、同属のアサヒナカワトンボと広域的に同所分布している地域内の個体群であるため、アサヒナカワトンボとの形態的差異が拡大する「形質置換」を起こしているケースですので、今回撮影したニホンカワトンボとは、体サイズ、橙色翅♂と無色透明翅型♂の比率、♀の翅の色などで大きな違いが出ています。

今回の記事は、過去記事ピックアップを交えたニホンカワトンボの話題に終始した感がありますが、次回は私を感激された初対面の種との出会いを取り上げる予定です(今回のタイトルに「脇役」を付したのは、この理由からです。御免なさい→ニホンカワトンボさん、シオヤトンボさん、アキアカネさん)。


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2017-08-26 (Sat)
前回記事に続き、今年の7月上旬、関東地方から脱出した先にある、自然度の高い浅い沼一帯のトンボ観察からのエピソードをご紹介します。

この沼の上流側(つまり主たる流入河川がある側)は土砂だけでなく、泥炭も堆積して小規模なミズゴケ湿原写真1)が発達しています。

数種のトンボが見られたミズゴケ湿原 
写真1 数種のトンボが見られたミズゴケ湿原(写真はクリックで拡大します)

手前の黄緑色のスゲ類で茫々とした面がミズゴケ湿原、遠景の森の手前の若干緑の濃い平面が遠浅のミツガシワ帯となっています。

自然な生態遷移の進行上、やむをえないのですが、池塘は浅く狭くなっていき、樹木の侵入が起きていることが見てとれます。

ハイカーや自然愛好家による踏み付けも湿原環境の悪化原因になりますが、それを防ぐ手立てがとられているのが救いです。

このミズゴケ湿原には、モウセンゴケ Drosera rotundifolia Linnaeus写真2)、トキソウ Pogonia japonica Rchb.f.写真3)など、その立地に特有の植物も細々と生き残っています。

モウセンゴケ 
写真2 モウセンゴケ Drosera rotundifolia 

モウセンゴケの背景(水にひたった湿原面)には、たっぷり水を含んだミズゴケがぎっしりと茂っているのも見てとれます。

トキソウ
写真3 トキソウ Pogonia japonica

今回の記事は、そのミズゴケ湿原で観察されたトンボについてまとめています。

午前10時を少し回ったところで、そのミズゴケ湿原に到着しました。

出迎えてくれたのは、ワタスゲの穂の垂れ下がった枯れた花茎の先にとまる、アキアカネ Sympetrum frequens (Selys, 1883) 未熟♂でした(写真4)。

アキアカネ未熟♂ 
写真4 アキアカネ Sympetrum frequens 未熟♂

アキアカネの写真ばかりが続くことになりますが、写真4は、ちょっとした「絵」になっているかな、ということで採用しました。

小さな池塘のほとりのイグサ類の葉には、ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea Rambur, 1842 ♂が水平にとまっていました(写真5)。

ハッチョウトンボ♂ 
写真5 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♂

もし私が初めてこのトンボに出会ったとしたなら、大感激といったところですが、今年6月に東海地方の生息地で観察・撮影していますので、「や~、しばらく!」といった感じでの観察・撮影となりました。

ハッチョウトンボは、超小柄なですが、全身を真紅の衣装で着飾っていて、「ミズゴケ湿原の姫君」と形容したくなるトンボです。もっとも真紅なのは♂のほうですが。

私のハッチョウトンボへの恋心(?)はすでに3回、トップアイドル級の扱いで記事(下記3件)にしていることからバレバレかもしれません(笑)。


しばらく見ていると、ハッチョウトンボの♂同士のなわばり占有を巡る追い合いが始まりました。
上から見て直径1~2mの範囲内を目まぐるし速度で旋回しながらの追い合いです。

カメラにどう収めようかとまごまごしている間に、追い合いは決着し、再び池塘のまわりに静穏が戻りました。

これらの観察の後、いったんミズゴケ湿原を離れて沼への流入河川(細流)とその周辺の湿地へトンボを観に行きました。
そこで見たトンボは次回の記事でとりあげることとします。

午前10時30分を少し回ったところで、私はふたたび、このミズゴケ湿原に戻っていました。

今度は、そこのスゲ類の葉にオゼイトトンボ Coenagrion terue (Asahina, 1949) ♂がとまっているのを見つけました(写真、再掲)。

オゼイトトンボ♂ 
写真(再掲) オゼイトトンボ Coenagrion terue  ♂

実は、写真6は比較的よく写っていたので、前回記事で使っていました。

今度は、確かにこの場で撮れたオゼイトトンボの現場写真として再掲しています。

池塘のほとりのイグサには、先程のハッチョウトンボ♂があいかわらずとまっています。

少し離れたところには、イグサのような草の尖端近くにアキアカネ未熟♂がぶらさがっていました(写真7)。

アキアカネ未熟♂ 
写真7 アキアカネ Sympetrum frequens 未熟♂

多数のワタスゲの穂が競い合う一帯を写真に収めたあと、私はこの湿原から離れ、森林斜面とミツガシワ群落が接する岸沿いの小径をたどりながら元の小径を戻り、早目の昼食を兼ねた休憩をとりました。

昼食後、12時40分すぎに、このミズゴケ湿原に戻りました。

あわよくば、今年6月の東海地方でのトンボ探訪の際に果たせなかった、ハッチョウトンボの交尾・産卵シーンの観察・撮影をという魂胆です。

ここでの午後最初のトンボは、枯草の尖端にとまり、太陽の方向に腹部を挙上するオベリスク姿勢をとっているアキアカネ♂でした(写真8)。

アキアカネ♂ 
写真8 アキアカネ Sympetrum frequens ♂

この日は猛暑日にこそなりませんでしたが、直近のアメダスポイントの最高気温は30℃を越え、真上に近い角度からの直射日光でこのアキアカネの体温もかなり上がってしまったのでしょう。

 ※アキアカネのオベリスク姿勢についての過去記事があります。こちらです→「アキアカネ♂

私も、この時間帯は、暑さのため、観察時刻を短く切り上げて日陰に入りたいと体が悲鳴を上げそうになる中での観察・撮影となりました。

※今回の訪問地の沼・湿原で、アキアカネをそこここに見ることができましたが、そこがたとえ水辺であった場合でも、交尾や産卵といった生殖行動のためではなく、採食や休憩をしながら、秋の交尾・産卵シーズンに備えているだけのことです。

※アキアカネの生活史については北海道の事例に着目しながら私が分析し整理した総説が日本トンボ学会の会誌に掲載されています(過去記事「【総説】 北海道のアキアカネの生活史:トンボ学会誌に掲載」参照)。

さて、観察報告に戻ります。

そんな中、同じミズゴケ湿原の、イグサ類、スゲ類にそれぞれとまっているオゼイトトンボ各1♂は、平然といつも通りのとまり方を維持していました(写真9)。

オゼイトトンボ♂ 
写真9 オゼイトトンボ Coenagrion terue  ♂

不均翅亜目と違って均翅亜目のイトトンボ類は腹が細いので、太陽光に直角の場合でも受光面積が小さく、また体積にくらべて表面積が大きくなる分、体熱の空気中への発散の効率がよいことが、オベリスク姿勢を敢えてとらないことの理由かもしれません。

均翅亜目とオベリスク姿勢の関連は、今後、注目していきたいと思うテーマの一つになりました。

さて、次に見つけたのは、スゲ類の葉にほぼ水平にとまるハッチョウトンボ♀でした(写真10)。

ハッチョウトンボ♀ 
写真10 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♀

♂に「姫君」の称号を横取りされた♀ですが、地味な色彩ながら、茶・黒・白をさりげなく組み合わせた着こなしには、むしろ大人の気品さえ感じさせます。

実際のところは、他の多くのトンボ(たとえば、シオカラトンボ)と同じように、ハッチョウトンボでも、派手な色彩の♂が捕食圧を高める不利を交尾獲得の有利さで埋め合わせる中で、♀は背景にまぎれたこの迷彩色で捕食圧を少しでも下げているのでしょう。

繰りかえしの紹介になりますが、この着飾り方の雌雄差に関連した内容を過去記事「ハッチョウトンボ:恋のドレスアップ」に書いています。

さて、しばらくすると、その♀がオベリスク姿勢をとりました(写真11)。

ハッチョウトンボ♀、オベリスク姿勢
写真11 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♀

その少し後、まるで申し合わせたかのように、ハッチョウトンボ♂もオベリスク姿勢をとりました(写真12

ハッチョウトンボ♂、オベリスク姿勢
写真12 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea

更に、別のハッチョウトンボ♀(後翅の破れの有無で写真11の♀と区別がつきます)もオベリスク姿勢です(写真13)。

ハッチョウトンボ♀、オベリスク姿勢(2)
写真13 ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea ♀

これではまるでオベリスク大会です。
オリンピックの体操競技で、2,3人の選手が同時に平均台の上で倒立しているシーンを彷彿とさせます。

たとえ話はこのくらいにしましょう。

季節的にも、時間帯的にも、♂♀が幼虫生息地(=産卵場所)である池塘周辺に出そろっていることからも、交尾行動の出現が期待されたのですが、このままカンカン照りの湿原で観察を続けると私が熱中症でダウンしかねない気象条件でした。

そんなわけで、後ろ髪をひかれる思いで、このミズゴケ湿原を後にし、日陰のある森林斜面に接する岸沿いの小径へと歩を進めました。

次回記事では、このミズゴケ湿原に近接する流入河川(細流)とその近くの湿性草原のトンボを採りあげる予定です。


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2017-08-25 (Fri)
今年の7月上旬、奥の細道ならぬ奥の蜻蛉道をたどり、関東地方では見られないトンボも棲む生息地を初めて訪れました。

朝から夏の日差しが照り付ける好天に恵まれたこの日の朝、私は台地状の丘陵地の中央部の窪地に形成された浅い沼のほとりにたどり着きました(写真1)。

多様なトンボが生息する、台地上に形成された沼 
写真1 多様なトンボが生息する、台地上に形成された沼(写真はクリックで拡大します)

沼の周囲の集水域に人家や畜舎などがないことから、水の富栄養化もおきにくく、トンボを含む水生生物にとって好適な環境であることが予測できていましたが、その期待を裏切らない、素晴らしい生息地であることが、このあと登場するオゼイトトンボ Coenagrion terue (Asahina, 1949)写真2)他(実は「他」の中には、もっと大物が。。。)のトンボ達によって証明されることになります。

オゼイトトンボ♂ 
写真2 オゼイトトンボ Coenagrion terue 

このオゼイトトンボ♂については、以下の時系列順の記述の中であらためて取り上げます。

第1回目の今回の記事では、午前9時ちょっと過ぎにスタートし、森林の斜面が沼のミツガシワなどの抽水植物が繁茂するゾーンに接する、岸沿いの小径をゆっくりと歩みながら見つけた、トンボ達を紹介します。

最初に目にとまったトンボは、水辺から舞い上がり、低木の葉の上にとまった羽化直後のイトトンボでした(写真3)。

イトトンボ科の1種、♀、羽化直後 
写真3 イトトンボ科の1種 Coenagionidae sp. ♀、羽化直後

帰宅後、写真3の画像を拡大して図鑑類と見比べましたが、イトトンボ科の1種の♀と判定するのがやっとでした。
種まで同定するにはもう少し色々な角度からもっとピントのあった写真をとる必要があることを、改めて思い知らされました。

岸沿いに少し歩くと、岸近くの木漏れ日のあたるスゲ類の葉に、モノサシトンボ Pseudocopera annulata (Selys, 1863) の♂がとまっていました。

モノサシトンボ♂ 
写真4 モノサシトンボ Pseudocopera annulata 

このモノサシトンボ♂は、若干青味がかった表皮の白色部はまだ瑞々しく、成熟の途中であることをうかがわせます。
また、視線が斜め上を向いていることから、餌昆虫が通りかかれば飛びかかるという態勢をとっているように思われます。

午前中の岸沿いトンボ探訪で、この後も同様に草木の葉にとまるモノサシトンボ♂を3例撮影することができました。
そのうちの1♂は、木漏れ日もあたっていない日陰の丸い木の葉の表面先端付近にとまっていたものです。

岸沿いに歩みを進めると、岸辺の木漏れ日のあたる、折れ曲がったスゲ類の葉にアキアカネ Sympetrum frequens (Selys, 1883) ♀がほぼ水平にとまっていました。

アキアカネ♀ 
写真5 アキアカネ Sympetrum frequens ♀

こちらにお尻を向けてとまっていますが、この日初登場のアキアカネでしたので掲載しておきます。

木漏れ日のあたる、への字形に折れ曲がったスゲ類の葉に斜めにぶら下がるかたちで、オゼイトトンボ♂写真2:ただし、10時37分に撮影の別個体)がとまっていました(9時36分)。

オゼイトトンボ♂ 
写真2の再掲 オゼイトトンボ Coenagrion terue ♂  (10時37分に撮影)

オゼイトトンボの学名のうち、種小名のterue は命名者である朝比奈正二郎博士(故人)の奥様のお名前をローマ字表記したものです(トンボ界では知らない人はいないほどのエピソード)。

さて、オゼイトトンボと私の関係ですが、大学院生時代に札幌市郊外の山中の沼で、多数派のエゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum (Selys, 1872) に交じって活動していたのを観察して以来の再会になります(過去記事「トンボ相とトンボ群集(4):群集調査地のトンボ相」参照)。

その後、就職して釧路市に転居してからは、道東の生息地ではどこでも、オゼイトトンボの代わりにキタイトトンボ Coenagrion ecornutum (Selys, 1872)(過去記事:「キタイトトンボの産卵:男はつらいよ!?」参照)がエゾイトトンボのライバル、正確には同属の同所分布種となっていました。

埼玉に再転居した今は、北海道特産種であるキタイトトンボはもちろんのこと、エゾイトトンボ、キタイトトンボも県外遠征しなければ会えない、少し遠い存在となっています。

ということで、オゼイトトンボとは今回、感激の再会となりました。

更に岸沿いに歩むと、日のあたる丸い葉にとまっている別のオゼイトトンボ♂もいました。

先に進んだところで、沼の岸のヨシ類の葉の上にとまるヨツボシトンボ Libellula quadrimaculata Linnaeus, 1758 ♂写真6;ただし、10時48分撮影の別♂)を見つけ、カメラに収めました(9時39分)。

ヨツボシトンボ♂ 
写真6 ヨツボシトンボ Libellula quadrimaculata  ♂ (10時48分撮影)

ヨツボシトンボは過去記事「睡蓮をバックにヨツボシトンボは鎧を見せつける」で主役を務めています。

少し進んだところで、沼の抽水植物帯のミツガシワの葉先に水平にとまる、オゼイトトンボ♂を撮影しました。

更には、沼のヨシ類の茎にとまるアオイトトンボ Lestes sponsa (Hansemann, 1823) 未熟♂写真7)も見つけ、撮影しました(9時51分)。

アオイトトンボ、未熟♂ 
写真7 アオイトトンボ Lestes sponsa 未熟♂

アオイトトンボは過去記事アオイトトンボ♂」で一度だけ主役を務めています。

更に進むと、今度は岸の草の丸い葉の中央に水平にとまるエゾイトトンボ♂写真8)が見つけからいました。

エゾイトトンボ♂、サスマタ形黒紋個体 
写真8 エゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum ♂、サスマタ形黒紋個体

写真8を拡大してよく見ると、腹部第2節背面の黒紋は典型的なスペード形ではなく、サスマタ形、それも半円形ではなくロの字を半分に切ったような形のそれになっています。

●さすまたの実物の参考画像(外部リンク
※参考画像のリンク先頁のタイトル「大工nanoの建築三昧2:『さすまた』

少し移動すると、今度は低い草の葉の先に水平にとまる腹部第2節背面の黒紋は典型的なスペード形エゾイトトンボ♂が見つかりました。

エゾイトトンボ♂、スペード形黒紋個体 
写真9 エゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum ♂、スペード形黒紋個体

その後も少し離れたところで、スゲ類の葉にとまるサスマタ型のエゾイトトンボ ♂(別個体)を再び撮影しています。

エゾイトトンボと私との関係は、オゼイトトンボのところに書いたように、北海道在住時は長い付き合いでしたが(過去記事:「エゾイトトンボ♂:青空カフェでしばしの休息」も参照)、埼玉県に転居してからは疎遠となっていましたので、オゼイトトンボほどではありませんが、今回の出会いは旧交を温める機会となりました。

札幌市郊外の山中の沼でも、多数派のスペード形黒紋の♂個体に交じって、さすまた形黒紋の♂個体も少数ながら観察・採集した経験があります。

この後、ミズゴケ湿原部分や沼に流入する小さな細流沿いの湿性草原でそれぞれを特徴づけるトンボを観察することになりますが、それについては次回記事で詳しく取り上げます。

また、その後の記事では、同日午後に森林とミツガシワ帯が接する岸沿いで観察・撮影された私にとって憧れのトンボとの出会いをレポートする予定です。

以下は、ミズゴケ湿原部分や沼に流入する小さな細流沿いの湿性草原を見た後、もとの森林斜面とミツガシワ帯の沼面が接する岸上の小径を戻る際に見られたトンボについてのメモです。

そのミズゴケ湿原を折り返す際に、そこのスゲの葉にオゼイトトンボ♂がとまっていました(写真2)(10時37分)。

また、イグサのような草にぶらさがる、アキアカネ未熟♂も観察・撮影しました。

もう少し戻ったところのの、枯れた草の茎の先には、ヨツボシトンボ♂がとまっていました(写真6、下に再掲)。

ヨツボシトンボ♂ 
写真6の再掲 ヨツボシトンボ Libellula quadrimaculata  ♂

森林斜面が迫る戻り道では、ミツガシワ帯のヨシ類の葉にぶらさがるようにとまるモノサシトンボ♂の羽化直後個体を見つけました(写真13)。

モノサシトンボ、未熟♂ 
写真13 モノサシトンボ Pseudocopera annulata ♂の羽化直後個体

モノサシトンボは準主役級で過去記事に登場しています(「トンボ王国訪問記(1):多彩なトンボ達に迎えられ」)。

かれこれしている間に、朝のスタート地点に戻りました。
早目の昼食休憩をとったあと、午後の観察がスタートすることになります。

午前中のミズゴケ湿原一帯のトンボ、午後見られたトンボについては、次回以降の記事でご紹介します。


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2017-08-24 (Thu)
今春、釧路市立博物館から、釧路市立博物館解説シリーズ『釧路の昆虫』(土屋慶丞 著)が発行されました(写真1)。

著者の土屋さんから依頼され、私が監修を引き受けたものですが、内容・構成は著者の提案を最大限尊重し、私は出来上がった原稿に目を通し、コメントする役割に徹しました。

釧路市立博物館解説シリーズ『釧路の昆虫』
  土屋慶丞 著
  釧路市立博物館発行
  A5版、29頁、フルカラー
  2017年3月
  釧路市立博物館等で販売

「釧路の昆虫」 
写真1 博物館解説シリーズ『釧路の昆虫』(写真はクリックで拡大)

長年、釧路・根室地域の昆虫相の解明に半生を捧げられた飯島一雄さん(過去記事:「トンボ研究者としての飯島一雄氏」参照)の業績、飯島さんに育てられた釧路昆虫同好会の面々がチームワークを駆使して蓄積した道東の昆虫についての知見をベースに、土屋さんが、博物館学芸員としての見識を縦横に駆使して、トンボ類、蝶・蛾類、甲虫類を中心に、釧路地域の昆虫の特徴を端的にまとめています(写真2)。

「釧路の昆虫」、本文(トンボ類)のレイアウト
写真2 博物館解説シリーズ『釧路の昆虫』の本文レイアウト

そのほか、鳴く虫やミズグモ、土壌動物といった、ちょっと目立たない虫たちについても紹介されているのも、特色といえるでしょう。

標本写真は同博物館の加藤春雄さん、生態写真は標茶町在住の飯島猛美さんが、それぞれ全面的に担当されたことで、ビジュアル面でも楽しめるものとなっています。



同博物館では、現在、下記の企画展を開催中で、この小冊子と企画展の両方に接することで、釧路地域の昆虫をより深い奥行きで知ることができるでしょう。

「釧路湿原国立公園指定30周年記念企画展『釧路の昆虫大集合!~飯島一雄コレクション展2017~』(7/1-8/27)」

※企画展の説明(釧路市立博物館による):
標茶町の昆虫研究家、飯島一雄氏(1928~2016)が釧路市立博物館と標茶町郷土館に寄贈された、昆虫標本コレクションをはじめとする研究資料を一堂に集めて展示します。

※企画展ウェブサイトはこちら(外部リンク)


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